05

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「いい匂い…」

『……っ…!?』


首もとで喋られ息が首にかかる。

……気持ち悪い。



『か…ださん…っ』


<絶対に俺から離れるな>


なら置いてかないでくださいよ…。



<俺の任務はおまえを無事に宿屋まで連れていくことだ。わかったら黙って着いてこい。>



任務ならしっかり遂行してくださいよ…。私を…置いて、いかないで…っ










―――ガッ



「…ぶはっ!?」

「……何してやがる…」


途端腕が解放され自由になる。帽子の男性は私の後ろを見るとぎょっと顔を歪ませて、立ち上がると慌てて走り出した。



「ぎゃあぁあ…っ」


あまりの叫び声にぎゅっと目を閉じて体を縮こめる。そっと肩に触れる手にビクッと体を揺らし、咄嗟にそれを払った。

『……や、ぁ…っ』



目を開くといつもと表情の違う神田さんが腰を屈めて私に手を伸ばしていた。




『か…んだ、さん…っ』

「ハル……、なっ…!?」


ガバッと形振りかまわず抱きつくと、そのまま神田さんは後ろへ倒れこみながらもしっかりと私を受け止めてくれる。



『絶対離れるな……って、…言うなら…置いて…ないで……くださいよぉ…!任務でも…いいから…っ、その間だけで…もいいから……っ、私を…ちゃんと見ててください……!!』

「……っ…」

『…ヒック……ぅっ…』


安心感からかさっきまで流れることのなかった涙が今さらになって嗚咽と共に溢れでる。



ぎゅうっと神田さんの服を握れば神田さんは優しく私の背に腕を回した。さっきの男性と違って温かい腕に、また安心してぽろぽろとこぼれでる涙。


「……悪かった…」

『…恐かっ…たんですよぉ……っ』

「……あぁ」

『…ヒック…ぅっ……わあぁあ…』




小さな子供のように声をあげて泣く私を神田さんは何も言わずに抱きしめてくれていた。夏が終わった涼しい季節にも関わらず、汗で湿った神田さんの服に気づいてしまったから、まだ涙は止まりそうもない。

























『……ヒック…、…ぅ…っ』

「……落ち着いたか」

『…は、…い……すみま、せん…』


……冷静になって考えれば恥ずかしい。




状況が状況だったとしても、私は神田さんに抱きついてしまったんだから。側に立つ神田さんをちらっと見上げると、バッチリ目があってしまった。

『あ…えと……』

「………ほら」

『………え、あ…すみません』


座りこんだままの私に手を差し出してくれる。その手を掴み立ち上がると、途端ぐっと引っ張られ私は変な声を上げながら何とか足を動かした。



『か…神田さ…』

「黙って歩け」

『は…い……』


心拍数が上がるのがわかる。ただ手を引っ張られているだけなのに、手から変に熱くなる。



あんなに恐いことがあった後だけど、繋がれた手から安心感が伝わる。ただそれだけで守られている気になってしまう私はよっぽど単純なんだろうな。


普段素っ気ない神田さんだけど、私を置いてっちゃう神田さんだけど、汗かくぐらい必死になって走って来てくれた。それだけで嬉しくて頬が緩んでしまうんだ。



『…ありがとう、ございます』


そう言って握られた手をきゅっと握り返せば、僅かながらも強く握り返されてますます緩む頬。

単純だって笑われてもかまわないって思えた。









 


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