03
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「…だいぶ科学班にも馴れたみたいですね。」
となりを歩く華奢な彼女に向かって首をかしげれば、嬉しそうにはにかんだ。
『…はい。みなさん本当に親切にしてくれて…』
最初に会ったときより、彼女は笑顔を見せてくれるようになった。あの町で見せたような、温かな笑顔を。
「僕も嬉しいです。」
そう告げればハルはきょとんとして僕を見上げる。その桃色の瞳が僕に向かっていることに、思わず目元を綻ばせた。
いつも下を見るばかりの綺麗な瞳が、今は僕をうつしている。それだけで僕の胸は温かくなるんだ。
「ハルが教団(ここ)にいてくれることもですし、…こうして貴女の瞳が見れることも嬉しいんですよ。」
にっこりと微笑んでみせれば、彼女は意図も簡単に頬を赤らめる。そんなところも愛しいと感じる僕は、病気だ。
『わ…私も、ここにいれることが…アレンさんやみなさんと、一緒にいれることが…嬉しいです。』
徐々に語尾が小さくなる。合わせてハルはうつ向いてしまうけど、彼女の言葉はしっかり僕に届いた。
意外にも真っ直ぐな言葉に珍しく少し恥ずかしさを感じる。それはきっと相手が彼女だから。
『わ、私仕事…っ、やらなきゃいけないことがたくさんなので…戻ります!』
そそくさと駆けていくハルの小さな背中をクスッと微笑みながら見送った。
「英国紳士のアレンが照れるなんて珍しいさ〜」
「………いつから見てたんですか?」
「アレンがクッサイ台詞吐いてる時さ。」
「クッサイってなんですか…」
背後からひょっこりと現れる赤毛の兎は、ニヤニヤしながら僕の肩に腕を回す。
「アレン、好きな子には初(うぶ)なんさね。」
「……僕がいつハルを好きだと言いましたか?」
「は?」
ラビの心底驚いた声に僕も驚いてしまう。
僕がハルを好き?まさか。まだ会って十数日の彼女。
確かにハルの過去を知って、彼女を救いたいと思った。何も知らずにここへ来た彼女を、どうにかしてあげたいとも思った。
けどそれはただの親切心で、決して"好き"だという感情からではない。
好きか嫌いかと聞かれれば、迷わず好きだと答える。しかしそれはリナリーにも言えることであって、ハルだけではない。
「おい、アレン?」
「……はい」
「黙ったままどうした?」
ラビの翡翠の垂れた目がじっと僕を見下ろしていた。
「別に。そういうラビはどうなんですか?」
「オレに聞く?そんなんあたりまえ、大好きさ。」
何の恥じらいもなく嬉しそうに笑うラビ。素直に羨ましい人だと思った。
「ラビは惚れっぽいですもんね。」
「何言ってんの。オレ今はハルだけなんさっ」
そう言って笑う兎。僕は少しからかうつもりで問いかけた。
「もしハルがここを出るって言ってたらどうしたんですか?」
ただからかうつもりで…
「そんなこと、考えられない。」
ラビが真剣な顔をして答えたから、びっくりした。だってあのヘラヘラしたラビが…。
「ま、それだけ本気なんさ!」
笑いながら歩いていく彼の背中をハルのときとは違い、何故か少しモヤモヤした気持ちで眺めていた。
この感情の正体は…