05
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「なっ…なんだ!?」
「ハル!!逃げなさ…っ…」
「きゃあぁああ…っ!!」
何が起こってるの?
頭が痛い…。耳に響く…。
分からない…わからない…ワカラナイ
突然得体の知れない物体が私たちの家を壊した。真っ赤に燃える家が視界に入る。
お父さんが私たちを守るように立ちはだかった。化け物の銃口がお父さんの頭に向けられて…あっという間……。
目を開けばお父さんの服だけがその場に残ってて…私たちは唖然とする。
何も考えられなくて立ちすくんでいた私をお母さんがどんっと押した。お姉ちゃんも私の上へ倒れ込んできて、さっきと同じく大きな爆発音が響いた。
『……いや…っ…なんで…?』
お母さんがいなくなった。やっぱり服だけを残して。
私の上にいたお姉ちゃんは立ち上がると私を置いて駆け出した。
「いやっ…誰か!助け…っ」
『お姉ちゃんっ!!』
待って。私を置いて行かないで…。
お姉ちゃんは私を見た、それでも私を放って走り出す。
手を伸ばしても届かない。
掴んでくれる人間もいない。
恐怖と悲しみに流れ出る涙で顔はもうぐちゃぐちゃだ。怖い。振り向きたくない。そこにはきっと化け物がいるから。
私の意に反してからだは勝手に動き出す。頭ではイヤだと叫んでるのに、私はそれがいるであろう場所を見た。
『……え…』
いない。気持ちの悪いあの化け物はもうそこにはいなかった。ほっとした。私も消えちゃうのかと、死んじゃうのかと思った。
『お姉ちゃん!もう大丈…』
「いゃあぁああ!!!」
今度は自分で振り向いたんだ。そしたらちょうどお姉ちゃんが爆発した。人間って爆発するんだっけ?なんて考えた。心臓がバクバクと脈打つのが分かる。背中がゾクッと震えた。
お父さんは?お母さん、お姉ちゃんは?
みんな一瞬で消えちゃった…。
認めたくない…認めたくないけど、死んだんだ。いや、違う。
…殺サレタンダ。
『イヤ…っ…あぁあ…』
目の前で家族を、大切な人たちを殺されたのに…私は何もできなかった。あの化け物が消えたとき、良かった、助かったって思った。お父さんとお母さんは死んだのに。
お姉ちゃんを撃った化け物が私に近づいてくる。私も死ぬんだ、殺されるんだ。目を瞑った。何も見なくていいように。
やっぱり大きな爆発音が聞こえた。
でもおかしい。
私が、生きてる。
目を開けると大きなおじさんが私を見下ろしていた。ビクッとからだを震わすけど、おじさんは黙って手を差し出す。
辺りを見ても化け物の姿はなく、大切な人たちが着ていたはずの服があるだけ。
『あ…あの…っ』
「心配ない。着いてこい。」
有無を言わせない低く強い声に、私は黙って手を重ねた。おじさんは私の手を引いて歩き出す。
どこにつれていかれるかなんてどうでもよかった。だってもう、私の家族はいない。
どこに行っても、もういないんだ。
「おまえの家族は死んだ。」
『…っ…!?』
何を言い出すんだ。この人は。
そんなこと言われなくても分かってる。目の前で爆発したんだから。
「誰かが家族を生き返らせてやるなんてバカなことを言ってきても…耳はかすんじゃねぇぞ。」
『…生き返らせる?』
やっぱりこの人はおかしい。死んだ人間を生き返らせることなんて出来っこない。常識的に考えればわかることだ。
「おまえはまだ幼い。一人じゃ生きていけないだろう。…そのうち迎えがくる。」
私たちはいつの間にか近くの町に着いていた。私はここを知っている。お母さんの知り合いのおばさんがお店をやっている町だ。
「俺はもう行く。最後にもう一度言うが、決して忘れるな。死んだ人間は生き返らない。」
それだけ言うと踵を返して去ってしまったおじさん。一人になって感じた。
私はもう一人なんだ。家族はいない。
『ぅ…っ……』
涙が止まらない。お姉ちゃんが消えた瞬間が、瞼に焼きついて離れない。あの化け物の姿も消えない。…おじさんの言葉も。
"死んだ人間は生き返らない。"
分かってる。もうみんなはいないんだ。
なんで私だけ生きてるんだろう。お父さんやお母さんは私を庇って殺されたのに…なんで。
「…ハルちゃん?」
『お…ばさん…っ』
どうしておばさんがそんなに悲しそうな顔をしてるの?あのおじさんに聞いたのかな…。おじさんならやりそうだな。
優しく抱きしめてくれるおばさんの肩が震えてるのがわかる。ああ…おばさんも泣いてくれるんだね。
私は守られてばっかりだ。もう守る側にまわりたい。
守るべき家族はもういないけど、私は私の家族のために泣いてくれる目の前のおばさんを守ろう。
大切に、大切にしよう。
生きる理由にしよう。
幸せを見失った少女