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「……ハル?」

『だ、大丈夫…!拾ってくれてありがとうございます、ジョニーさん。』


揺れる瞳でお礼を言うハル。小さなからだはかたかたと震え、ジョニーは心配そうに見るが、普段は見せることのない乾いた笑みに戸惑っているようだ。




「…ハル、ちょっと来い。」

『リーバーさん…』


手にした資料を置いてとぼとぼと寄ってくる少女。普段からきゃぴきゃぴした性格でもなかったが、子犬のように駆け寄って来ていた。

にもかかわらず今の彼女はあからさまに元気がない。何かがおかしい。


腕を掴み歩きだすと、何も言わずに着いてくる。掴んだ腕はちゃんと食っているのか心配になるほど細い。彼女にはもっと休憩をやらなきゃいけないな、なんて考えながら室長室へ向かった。





















「やっちゃったか〜。」

「やっちゃったか〜、じゃないッスよ…。やっぱりあんたが突っついたんすね。」


へらっと笑うとリーバー君は困ったように頭を掻いた。ハルちゃんはうつむいたままで、表情も見えない。僕がごめんね、と謝るとふるふると頭を振るだけ。




「ラビもラビだな…。ハルが引っ込み思案なこと知っててあんなこと…」

『いいんです…。』


リーバー君の言葉を遮ったハルちゃんに僕らは驚いて目をまるくする。だってあの彼女が人の言葉を遮るなんて、今までじゃ考えられない。



「何がいいんだい?」

尋ねるとやっぱりうつむいたまま言った。



『私が悪いんです…。ラビさんの気分を害しちゃったみたいで。』


そこでやっと顔をあげてくれた彼女の顔には、無理矢理作った笑みが貼り付けられていた。それに気づいたリーバー君も、悔しそうに表情を歪める。

「ハル…おまえはなんで、…」

「そっか、なら仕方がないね。リーバー君と仕事に戻っていいよ。」




どうしてそんな風に笑うんだ、って聞こうとしたんだろうけど、それは僕が遮った。

それを聞いたら君はあの瞬間を思い出しちゃうから。きっともっと悲しい顔をしちゃうから。






僕らは君の笑顔が見たいのに。






『ご迷惑をかけてしまってすみません…。失礼します。』


そう言って出ていったのはハルちゃんだけで、リーバー君はじっと僕を見る。君は鋭いから気づかないでいいことまで気づいて、僕は大変だよ。





「室長…。ハルに何があったんですか?」

「さぁ…僕も知らないなぁ。」

「室長!!」


リーバー君の声が部屋に響く。彼がこんなに声を荒げるなんて珍しい。



「あの子はここに来て、町にいたときのような本当の笑顔を見せてくれましたか?あの子にとってここはホームじゃ…俺たちは家族じゃないんですか!?」

「それは違うよ…」


違うんだ。

あの町で見せていた笑顔ですら本物じゃないんだから…。彼女はあの時から…、家族を失った時に笑顔をもなくしてしまったんだ。


「あの子にはまだ越えなくちゃいけない壁がたくさんあるんだ。」



それを越えたらきっと笑ってくれる。ホームだと、家族だと言ってくれる。


「ハルちゃんを信じて待っていよう。僕たちは。」

リーバー君はまだ納得のいかないようだったけど、その場は退いて部屋を出てくれた。



彼女はまだ"黒の教団"のことを知っていない。

僕らが世界を守るため、"AKUMA"を相手にしていること。

リナリーたちエクソシストがそれと命を懸けて戦ってくれていること。

もうここから出られないこと。


そして、"AKUMA"が家族を壊したそれだということ。



あの子は知らないのに、人一倍頑張ってくれている。

リナリーが怪我をして帰ってきたら、あの子はどうするだろう…。相手が"AKUMA"だと知ったらどうするだろう…。



突然知らない場所に連れてこられて、彼女は文句ひとつこぼさない。辛いことがあっても涙ひとつ溢さない。





君が安心して泣けるように、安心して心から笑えるように…





…そうなる日を僕は祈るよ。





 


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