08
―――ザッ…
漸く歩みを止めたのは人気のない森の中。街からそう離れてはいない。
目の前に座るのは一人の男。
『あんた?あたしたちをずっと見てたやつ。』
「へぇ…。気づかれちゃってたのかぁv」
何故か嬉しそうな男に、さすがのハルも眉をしかめる。
『何の用?』
単刀直入の質問に男は思わず吹き出した。
「ボクが"実はね…"なーんて答えるようなイイヒトに見えるかい?」
『見えない。』
「即答?厳しなァ。」
妖しく微笑む男にハルは構わず睨みつける。
『あんたも牛魔王の刺客なら、ここであたしがぶっ飛ばすよ。』
「ん〜…牛魔王の刺客ではないかな?もちろん王子様に差し向けられた者でもないヨv」
『…王子様?』
男は立ち上がると首をかしげる少女へと歩み寄った。ハルは退くことなく、彼へ蘇芳の瞳を鋭いままに向ける。
「ボクはキミたちの能力に興味があるんだよネv」
『能力…って魔法のこと?』
「キミたちはそう呼ぶみたいだね。キミたち双子の力…。ボクにもまだ知らないことがあったみたいだ。」
そっとハルへと手を伸ばす男。
しかし……
「…っつ!?」
突如感じた熱に伸ばしかけていた手を退ける。ハルは威嚇するように、男を睨みつけた。
『気安く触んないでよ。てかあんた誰?』
男は面白そうにニヤッと笑う。
「ボクはキミがだ〜いスキな三蔵サマだよv」
『………。…三蔵はあんたみたいな変態顔じゃないよ?』
「ハハッ…言うねェ?」
頭を抱えて笑う男は眼鏡の奥の黒い瞳を光らせた。
「一緒に来ないかい?ボクとv」
『行かない!!何なの!?みんなそろって!!』
先ほどの紅孩児たちといい、望んでもいない誘いにハルはいい加減苛立ちを覚える。
『あたしは…あたしたちは三蔵たちと一緒にいたいの!!ほっといてよ!』
「ボクはキミたちをもっと知りたいv」
『……なら、力づくでどーにかしてみなよ。』
むっとするハルの手に現れた巨大な扇に、男は妖しい笑みをさらに深めたのだった。
襲いかかる黒い影