04
「ハル、いい加減にしろよ…」
『……べつになんともないもんッ』
三蔵が眠るベッドの近く、床に座るハルは膝を抱えて小さくなっている。呆れたようにため息をつくリクは、そんな彼女の正面にしゃがんでいた。
「だったらんなとこで縮こまってねェで、顔あげろよ」
『…………』
ちっとも反応しない片割れにもう一度ため息をついたリクは、さっきまで悟空が座っていた椅子に座る。
<強くなる>
傷ついた三蔵を目の当たりにしたことで、自我を失った悟空。三蔵の傷は自分を守るために出来た傷。それに心底落ち込んでいた悟空に八戒が言った。
<"誰かの為に"なんてのは、まず"応える"ことだと思うんです。
例えば僕を信頼してくれる人がいるなら、僕は自分自身を精一杯守り抜きます。
僕もその人を信頼しているならなおさら…
その人に自分を恥じたりしたくないから。
…三蔵、言ってたじゃないですか。>
<そいつら死なねーもん>
<だから僕らは応えなきゃ。自分が誇れるだけの強さで。>
八戒の励ましに応えた悟空の一言は、リク自身とは異なる答えだった。
<強くなりたい>
<強くなる>
「……願望と決意は違うよな…」
妹を守るために<強くなりたい>と願うリクは、先ほどの悟空のたった一言に胸を撃たれていた。
「……<強くなる>」
『……三蔵さ、あれが初めてだったのかな?』
「さぁな、坊さん何だからそうなんじゃね?坊主ってそーゆうのに縁なさそうじゃん」
『………』
ハルの脳裏に鮮明に残る三蔵と観音のキス。
"キス"と呼ぶには違うかもしれない。
"輸血"のための仕方のない行動だったのだから。
あの後、観音は意識のない三蔵に口付けをした。もちろん悟浄からの血を与えるために。しかしそれも一瞬で、三蔵が無意識に腕を振りそれを拒否したため、すぐに離れた。
それから観音は"真の目的"である牛魔王蘇生実験を阻止するよう念を押し、その場から光とともに消えてしまった。
『………』
しかし輸血のためであったとしても、慕う相手が誰かとそれをしていて、気分がいいものではなかった。
悟浄は前々から軽い男だと認識していた…(リクにより認識させられていた)…ため、そこまで衝撃を受けなかったが、三蔵は別。
普段堅物の彼がしている姿を見てしまったため、ハルにとっては到底おもしろくない。
『……さんぞーの阿呆…』
「誰が阿呆だ…」
「『三蔵ッ!!』」
寝ているはずの相手の声に、嬉しそうに飛び上がる双子。ゆっくり寝返りをうつ三蔵は呆れたように二人を見上げる。
「うるせぇ…」
『さんぞー!!』
「……ッ!?」
思い切り抱き着くハルだが、思い切り過ぎて腹の傷が痛む。けれど嬉しそうに笑う少女を見て、ふっと笑みを溢した。
笑顔の効力