03
『………』
「貴女は一体…?」
謎の女は壁を背に座る意識のない三蔵、リクの腕で眠る悟空、そして蘇芳の瞳をした双子に目をやると鼻で笑う。
「こんなところで足止めくらってる様じゃ大したことないな、お前らも」
「なッ、何者だてめぇ!!」
「おい、貴様!」
悟浄が吠えると女の後ろにいた老いた男が言い返す。
「口を慎め!!この御方こそ天界を司る五大菩薩が一人、慈愛と慈悲の象徴!観世音菩薩様にあらせられるぞ!!」
「観音様ァ!?コレが?」
「"自愛と淫猥の象徴"ってカンジなんですけど…」
「…いい度胸だ」
「『………』」
疑いの視線を解かない双子に気づいた観音は口角を上げ笑う。
「相変わらず警戒心が強いな、お前らは。」
「……おれらのこと、知ってんのか?」
『初めて会ったけど…』
警戒するリクと比べて、ハルは考えるように首をかしげている。もちろん考えたって思い出せるはずもないが。
「お前らにまた会えるとはな…」
「………」
『……また?』
眉をひそめるリクと余計に悩み始めるハル。そんな双子を見て「やっぱり、お前らは変わってねェな…」と呟く観音は、何故か嬉しそうに笑っていた。
「おまえが悟空の金鈷を…?」
「あぁ」
リクの問いにうなずく観音。悟空の制御装置は一般化されている普通の物とは違い、<神>のみが施すことができる特殊な物だと続ける。
「つまり孫悟空の力はそれだけ桁外れだってことさ、…まだ天界にいた頃からな」
「え…?」
「……」
疑問を残す言葉を最後に、観音の視線はいまだ目を覚まさない三蔵に向いた。
「さてと、問題はコイツか。かなりこっぴどくヤられた様だな」
『……三蔵、死なない…よね?』
「………」
三蔵の隣に座り込むハルは不安そうに見上げるが、ニヤッと笑った観音は彼女の頭をがしがしと撫でる。
「相変わらず"金蝉"に懐いてんな」
『………』
「まかせろ、この俺に不可能はない」
言いきった観音に根拠はないが、目をぱちくりさせながらも先ほどまでの<恐怖>はなくなった。
三蔵がいなくなるかもしれない
という<恐怖>は……。
「そこの血の気の多そうなお前!ちょい顔貸せ」
「ンだとコラ!!」
ビシッと指を差された悟浄は命令口調の相手にぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「神様だか何だか知らねェが、えばりくさって…
………!!」
「………」
「…げ……ッ!」
『……うっそ…!?』
ハルたちの目の前にはキスをする悟浄と観音。何も言わずそれを見る八戒とあからさまに顔を歪めるリク、ハルは驚いたように目をまるくする。
「…ま、こんなトコか」
「…って何をイキナリ…ッ……!!?」
―――バシャッ
突然ふらっと倒れる悟浄に三人はさらに驚く。
「…あまり動くと貧血起こすぞ。今お前の身体から大量の血気を吸い取ったからな」
「あ、そ…」
「……そのための、…ってわけね」
『でもどうやって三蔵に…』
納得する彼らを放って観音は三蔵の髪を掴むと無理やり上を向かせた。
「…こーゆーことされて悔しいだろ"金蝉童子"。いや…今は玄奘三蔵だったな。…悔しかったら生き延びてみな、自分自身の力で」