03
「術師か…」
「…ウィザードだけどもうめんどくせェよ」
この世界に来て何度訂正しても"術者"や"術師"と呼ばれるため、リクは諦めたようにため息をつく。
「何故、術師が妖怪の味方をする!?」
「おれの勝手だろうが」
「邪魔をするなら貴様もただでは済まんぞ」
「……やれるもんならやってみろ」
睨み合う二人。リクは右手に剣を創り出す。
「…リク、やめろ」
「な…、三蔵!」
ばっと前に立ちふさがる三蔵の背に一気にやる気を削がれたリクは、舌打ちをしながら手にしていた剣を消した。
「うちのガキの躾がなってなくて悪かったな」
「……んだよ」
「朱泱、何してんだ…あんた」
"六道"を"朱泱"と呼ぶ三蔵にハルはじっと二人の様子をうかがう。他の三人やリクも黙って見ていた。
「お前は…」
「一応言っとくけどこいつら殺してもバカが減るだけだぞ」
「『…確かに』」
「おいッ」
思わず揃って呟く双子に反射的に悟浄がツッコむ。
「ははッ…そうか!!噂には聞いていたが…まさかこんな所で出会そうとはな」
突然笑い出す"六道"、いや"朱泱"に訝しげに眉をひそめるハル。いつ何をするかわからないため、警戒を緩めずうかがい続ける。
「"今代の三蔵法師には不逞の輩がいる"、"下賤の民を従者に選んだ"と…」
『…下賤って?』
「身分が低い人々のことですね」
「いわゆる一般ピーポー、俺らのことよッ!」
ハルの疑問に八戒、悟浄が答えると、言葉の意味がわかったため少しムッとしながら話を聞く。
「"何している"だと?それはこっちの台詞だ、玄奘三蔵…。先代三蔵を殺めたのがそいつらの同族だということを忘れたはずはあるまい…!!」
「人間変わるモンだな、朱泱。あんたの口からそんな言葉が聞けるとは…」
「かわったんじゃねぇ、朱泱は死んだんだよ……。お前が寺を去った、十年前のあの日から…!!」
どうやら朱泱は三蔵が聖天経文を探しに寺を出たときのことを言っているようだ。
「…あの晩お前は人知れず山を下りた」
「……」
「だがその後すぐに、妖怪の夜盗群が再度攻め込んで来た…!!奪いそびれた"魔天経文"を狙って…、お前が持ち去ったばかりとは知らずにな!!!」
「!!」
しかし、三蔵の師や三蔵本人ですら立ちうちできなかった相手に、寺の法力僧がかなうはずもなく。
「だから俺はついに"禁じ手"と呼ばれる呪符で自らに呪いをかけた。<我に全ての妖怪を滅する力を>…!!」
「……まさか"阿頼耶(あらや)の呪"…!?」
『…あらやの呪?』
「そうだ…。そして俺は強大な法力を手にいれ妖怪どもを倒した!だが一度解放した力を抑えることはできない…。もはやこの俺の身体はコイツが妖怪の魂を喰らう為の道具でしかない…!!」
そう言って見せた朱泱の右胸には完全に根を張った札。
「この10年間…何の罪もない妖怪どもを殺しまくってきた。この札と…この札がもたらす激痛から逃れる為に…。妖怪どもがトチ狂って人間を襲い始めた後は、こんな俺でも救世主扱いだ!笑っちまうよ…!!ひゃははは…ッ」
"六道"は札に取り憑かれた魂の亡者の名となっていた。