――トントン
襖を叩く音
その音に中から出てきたのは部屋の主ではなくその"お気に入り"だった。
『く…紅野!えと…慊人は?』
襖を叩いた本人、なつめが彼を見上げて尋ねるが紅野は襖を閉めると、彼女の腕を引きその場を後にした。
そこは紅野の部屋。彼の性格通りきれいに整頓された部屋だ。
『…紅野?』
扉を閉め立ったまま動かない紅野をのぞき込むようにうかがう。ブラウンの綺麗な瞳に捕らえられたと思った次の瞬間。
―――グイッ
『……わっ』
彼の腕に包まれていた。なつめは拒むことなくきょとんとした面持ちで紅野を見上げる。
『……紅野?』
「いつ……いつ出てきたんだ?」
耳元で呟く紅野の声は約一年半ぶりで@@なつめは目を細めて微笑んだ。
『……半年前かな』
「今はどこに…」
『しーちゃんちだよ?…慊人に聞いてないの?』
ソファーに座りこれまでのことを話すと紅野はほっとしたように微笑んだ。
「なつめにまた会えてよかった…」
そんな彼を見てけらけら笑うと紅野が出してくれたお茶をコクコクと飲みほす。
『こないださ…慊人が学校来たんだよね』
「………ああ」
さすがに知っていたのだろう少し申し訳なさそうにうつむく紅野。
『慊人が透君やゆんちゃんと話してたから…何かしてんのかと思ってひどく当たっちゃったんだよね』
「慊人に…謝りに来たのか」
『あれ…なんでわかったの?』
苦笑しながら紅野を見ると、彼は真っ直ぐなつめを見詰めながら優しく微笑む。
「なつめのことだ…分かるよ」
そんな彼の笑みになつめは下を向きながら言った。
『…紅野は……いつまで慊人の側にいるつもりなの?』
「……なつめ…」
今にも泣き出しそうな声色に紅野は彼女の名を呼ぶ。
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