『…慊人』

いつものように暗い部屋には布団が敷いてあり人影がひとつそこにうずくまっている。なつめの声にぴくっと反応すると次第に起き上がり被っていた布団から頭を出す。


「ずいぶん気に入ったようだね…」

『学校のこと?…思ってたよりうまくやってるよ』

「違うっ!!」

にっこり笑いながら話すなつめに慊人は思わず怒鳴った。



「……あの女のことだよ…っ!!」

あの女?と首を傾げ一時するとあぁ…と閃いたように声をあげる。


『透君のことか…うん!いい子だし優しいし…お母さんみたいなの!』

嬉しそうに話すなつめが気に食わないのか暗闇でも分かるほどにきっと睨みつける慊人。




「捨てられたくせに親を求めるなよ…っ!この化け物!!」

『……っ…』

慊人の言葉に辛そうに表情を歪めると今度は彼が嬉しそうに笑う。


「自分が化け物だって自覚してるんだね、なつめはいい子だね」



立ちすくむなつめにゆっくり近づくとそっとその体を抱きしめた。

「君は他の化け物たちより賢いと思っていたよ…」


耳元でくくっと笑う慊人に何の反応も示さないなつめ。

「どうしたの?そんなにショックだった〜?"化け物"って言われたことが」


終には声を出して笑い出す慊人になつめは黙ってうつむくしかなかった。

ここで何か言ったらきっと慊人は機嫌を悪くする…そしてその矛先は透に向かうだろう。それを避けるためのなつめの必死の我慢だった。



「大丈夫だよ…言ったじゃない、"化け物"な君でも僕はちゃんと愛してあげるって」


優しく告げる慊人になつめは涙を堪えるためにうつむき歯を食い縛る。












「慊人さん…それくらいにしたらどうですか?」

声のする方を見るとそこには紫呉の姿があった。


「……紫呉は黙ってて」

「そうはいきませんね〜、僕はなつめちゃんの味方なんで。」

いたずらに笑う紫呉にあからさまに慊人の機嫌は一気に悪くなる。


「……今あの女の友達が家に来てるんだろ?…なんで来たんだよ」

「もう丸1日なつめちゃんに会ってないですからね」

「いきなり本家に帰っちゃうんだもん!」と笑う紫呉になつめの気持ちは軽くなった。



「…透君がきてから由希も夾もいい意味で明るくなってきたよ…このまま良い方向に進むといいね」

うっすらと笑みを浮かべながら話す紫呉に慊人はなつめからゆっくりと離れ布団に横たわる。



「…君の本音は失敗する事なんだろうけど、残念でした!透君は君の何十倍もいい子なんですよ」






「――…どうせ僕は無いものねだりさ」


小さく二人とも帰れよと呟く慊人に素直に部屋を出ていく二人。部屋を出る間際なつめは慊人にやっと届くかのような声で呟く。




『……慊人も透君に会ってみるといいよ、自分がちっぽけに見えるから…』


そう告げると紫呉を追って部屋を出ていった。



「なつめまで…あの女の味方をするんだね…」

























「なつめちゃんは優しいね〜、あんなこと言われてまだ慊人の心配するのかい?」

冷めたように笑う紫呉になつめはいつも通りに笑ってみせる。


『慊人は寂しいだけなんだよ、ひとりぼっちで…だから側にいてあげなきゃ。』

「…君みたいな子をお人好しって言うんだよ。」


先ほどの冷めた笑みでなく呆れたような紫呉の笑みには温かさがこもっていた。



『あーあ、あたしもありさや花ちゃんとお泊まり楽しみたかったなぁ!』

切り換えるように声をあげる彼女に紫呉は「全く君って子はころころと表情が変わるね〜」とおもしろそうに笑う。


『あ、そういえば…ゆんちゃんと夾ちゃん、大丈夫だったかなぁ?』





ひとりぼっちの神様へ







 


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