『ふわぁ…おはよー』
「おはようございます!!なつめさん」
「なつめちゃんおはよー」
声のする方を見ると歯磨きをする夾にぎゅうっと抱きつく楽羅がいた。
『おはよー、楽羅は朝から元気だね』
言い争いを始めた二人を横目に紫呉と透がまだ楽羅の正体、十二支について話していた。
「お別れのキスなんてしてあげないから!」
「楽羅さん前……っぶつか…」
突然怒りに任せて走り出す楽羅の目の前には閉まったままのドア。透の声は聞こえるはずもなく……
――バキッ
「楽羅ぁ!!」
扉を壊して走っていく楽羅に怒鳴る紫呉。
『あーあ…』
「なによ…っ、夾君なんか…夾君なんか……っ」
やっぱり楽羅の走る先は壁で行き止まり。
―――ボゴッ
「大好きだーー!!」
楽羅の拳はそれをも砕く、しかしその先にはいるはずのない男の姿。
「「「Σ男!?」」」
慌てる3人の目の前を二つの影が素早く移動する。
『おはよーございます!いい天気ですねぇ』
「何か御用ですか?」
朝刊を届けに来た青年はなつめと由希に顔を押さえられ、身動きがとれなくなっていた。
「朝刊を…届け忘れて…//」
青年はなつめと由希のドアップに耐えながら、何とか答える。
「なつめちゃん、由希君ナイスだよ!そのまま青年の記憶がぶっとぶぐらい悩殺してしまえ!!」
紫呉がガッツポーズを作る横では二人の輝きに唖然とする透、一人ほっとする夾がいた。青年が去ったあと楽羅がいるはずの場所がはっきり見え始めた。
「気ィつけろ、楽羅!」
『夾ちゃんも透君にばれたんでしょ?人の事いえないじゃん』
「ごめん…まさかあんなトコに男の人がいるなんて…」
声の先には猪の姿がありそれを見て「分かりました!楽羅さんの正体は亥年ですね!」と勝ち誇った顔をして言う透。
「変身してから言われても…」
冷静に突っ込みをいれる紫呉、さらに過去の突っ走る楽羅の行動から分析を始めた透に重ねて突っ込む。
『透君嬉しそうだね』
「…何が嬉しいんだか。」
夾はしれっとしたように視線をそらす。
『あたしはわかるよ?透君の気持ち』
ふわっといつもの笑顔をみせるなつめに夾もつられてふっと笑う。
「夾君の浮気者ーー!!」
突然殴りかかってきた楽羅に夾は見事にぶっ飛ばされる。
『夾君って浮気者だったの?』
「ちげー!おいっ楽羅!!なつめの前で変なこと言うんじゃねぇ!信じちまうだろうが!!」
夾の言葉に聞く耳など持っていない楽羅は鼻息荒めに夾の頭部を掴んでいた。
透が誤解を解くために慌てて声をかけ、話終わると同時に楽羅の姿は人間に戻った。
「ほめられちゃった…//」
「服を着ろー!!///」
「修行が足りんよ、夾君」
顔を赤らめる夾と楽羅の裸を見てももろともしない紫呉。
『二人とも変態じゃん』
一言告げると真っ赤になって驚いていた透の手を引っ張って中へと入っていった。
「なつめさん?よかったのでしょうか」
『いいの、いいの!』
あっけらかんと告げるなつめを見てまたもや唖然とする透。そしてふと気になっていたことを口にした。
「なつめさんは何か物の怪が憑いていらっしゃるのですか?」
突然の問いに『あたし?』と驚くなつめは少し考えたあと大丈夫だよねと呟くとぱっと顔をあげた。
『あたしは……』
「ほら、なつめちゃん透君!遅刻しちゃうよ」
後から来た紫呉に背中を押されて居間へと連れていかれる。
『しーちゃん!今透君と話して…』
「…だめでしょ?」
耳元で囁く紫呉の声にぞくっとしてしまうなつめ。
「慊人さんが怒っちゃうよ…」
『…………』
黙り込むなつめを不審に思いながら居間へ向かう透。
「ほら、行くよー」
いつの間にか準備をしていた由希が玄関から声をかけた。
『待ってー!ゆんちゃん』
「…………」
走り出すなつめの背中を寂しそうに眺めるのは紫呉だった。
主には逆らえない
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