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明日にはこの島をでる。あなたは私にそう言いました。あなたは海に生きる人ですからいつかこの日が来ることはわかっていましたがいざ面と向かって言われると涙が止まらないのです。

私も連れていってと泣きながらしがみついてもあなたはただ首を振るだけで。私は何もあなたに本当に連れていってほしくて泣いたのではなくただあなたの冷静なその表情を崩したくて泣いたのです。
それなのにあなたは泣くこともめんどくさそうにすることもなくただ私を抱きしめました。



いつか絶対、迎えにくる。あなたはその言葉を残して村をでました。
あなたは随分すごい海賊になったようですね。手配書を見て驚きました。でも同時に淋しくもあり懐かしくもありました。あなたはもう私の手の届かない高みに行ってしまったようで。だけれど昔からのその濃い隈は変わらなくて。無理をしてやいないかととても心配になります。


ですがその心配も不用みたいですね。新聞を飾るあなたの決していいとは言えないニュースはあなたが昔より遥かに強くたくましい男になったと知らせてくれました。
あなたは強くなったのに、私は泣いてばかりの弱い女。ごめんなさい、それでも私には泣くことしかできないから。



だから帰ってきたら泣き虫な醜い私を強く強く抱きしめて。



私は今日もあなたを思って涙を流す。私の涙がぽたりぽたりとあなたの手配書に落ちるのです。その涙に濡れた手配書のあなたにキスをしてみても私の心は満たされなくて。



ああ、やっぱり私あなたがいないと駄目みたい。









あいつは俺が村を出るとき私も連れていってと泣いた。まだガキだった俺はその涙を拭いてやることもできず迎えにいくというなんとも不確かで残酷な約束をして村をでた。

あいつは今どうしているかな。俺のことを思って泣いていやいないだろうか。それとも俺のことなど忘れて他の男と一緒になっているだろうか。後者であればいいと思うがきっとあいつは俺のことを待ち続けるだろう。自意識過剰だと言われるかもしれないが。


今あいつがどこにいても笑っていられればいいと思う俺はあいつがいないとてんで駄目な弱い男らしい。唯一あいつと俺が写る2人の写真が静かに濡れていく。じわりじわりと。あいつには泣くなと言っても俺がこれではかっこつかないな。


必ずお前を迎えに行く。そんな不確かな約束は不確かな海へと投げてしまおうか。そうすればきっと灰色の海で溺死するのだろう。

俺もお前も。





涙の痕を広げて待ってる

僕らの涙も所詮この偉大な海の前ではちっぽけなものだった。



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ありがとうございました