私の事は、全部話した。彼らは、戸惑っていただろう。当然だ。私の方が、ずっとずっと戸惑ってるのだから。


「本当に、海だ」


通された部屋は、船の中とは思えない広さだった。目に入るのは決して肌触りが良いとは言えないシーツに、硬いベット。サイドテーブルにはお酒の瓶と思わしきものが置かれたまま。その前に置かれた座るだけの木製の椅子は、私がこの部屋に来た当初は転がっていた。そしてハンガーラックに無造作にひっかけられた黒の上着。耳に届くのは波の音。意識すれば潮の香りもある。


丸く切り取られた窓からの光景はあまりに現実味を帯びない。


拘束を解かれ、自由にして良いとは言われても、扉の向こうから聞こえる物音が怖い。全くくつろげない状況下で、さっきまでの話を思い返した。


「海賊なんて、本当に...?」


彼らは海賊だと言った。確かに、映画のワンシーンのようで納得できるが、それがスクリーン上でなく今目の前にいる事がおかしいのだ。
大体から私は、友人と待ち合わせていた。しかも季節は冬。なのに今はどうだろうか。コートなんて以ての外の気温で、海の上だ。

悪い夢なら、早く覚めて。

そう、思わずにはいられなかった。でも手首の痛みが、向けられた刺すような瞳が、夢というにはあまりにも現実的で、夢なんじゃないかという思いが揺らぐ。周りの環境は夢のようで、自分自身に起こった事はあまりにも現実的だった。

つらつらと考えながらうろうろと部屋を行ったり来たりする。もうこの部屋に来てどれくらいだろうか。正直、片付いてるとは言い難い部屋だった。ベッドに放り投げられた服に、床に転がる酒瓶。特にベッドの上の様子は、忙しい日が続いた自分も服をぽんぽん置いていたりしたな、なんて共通点を見つけ、それを片付けて心を落ち着かせてみたりした。時折、揺れに慣れていない体は足元をもつれさせながら、現実逃避のようにほんの少し、片付けをしていたのは、何か理由をつけて動いていたかったのだろう。


「いいか?」


不意に扉の向こうからかけられた声。何度目かわからないが、やはりまた肩が震えた。それでも、ぱたぱたと扉まで寄って、はい、と開けてしまうのはもはや今までの生活の癖のようなものかもしれない。


「大丈夫、です」

「入ってもいいか?」

「あ、はい、もちろん...!」


小さな声と共に開かれた扉。そこから見えるのは、海賊船には不釣り合いな少女と言っても過言ではない女。おどおどとした態度はずっと変わっていない。眉は八の字になって、不安に揺れる瞳と、不意の船の揺れに合わせてたたらを踏む様子からは、まさに人畜無害と言った風である。


「んじゃ、失礼」


ん?
ぱっと見渡した部屋の中、自分の部屋だが、片付いてる気がした。


「片付けてくれたのか?」

「あ...!はい、すみません、勝手に...」


俯き、尻すぼみになっていく声。こちらから見えるのはつむじと細い肩。見えない視線は忙しなく動いているのだろう。


「悪ィな、助かる」


ぽん、と頭に手を置く。一瞬びくっとしたものの、おずおずと顔を上げた。やはり、人畜無害。ただただ普通の一般人。それしか出てこなかった。



(この少女のどこに疑うべき点があるのだろうかと、ささやきは強まっていく)














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