ぱたん。
控えめな音とともに閉じられたドアの向こうが気掛かりでしかたなかった。振り返った先の2人も、神妙な顔をしていた。
「...話には聞いてたが、本当なのか...」
航海士、アルが元々切れ長の目をさらに細めた。まず、幹部と船を動かし、維持していくに必要な奴らには包み隠さず名前の事については話していたが信じがたい事だということは誰よりも目撃したおれらですら思っていた。能力者の可能性だって捨て切れていないと思ってる方が多いかもしれない。それでもたった今見えたそれにベンだって、いつもよりも眉間のシワが濃い。
「おれぁ信じてる。が、この目でしっかり見たわけじゃねェからな...」
がしがしと乱暴に頭をかき、音を立てて座る。航海の件は大事だが、さっきのを見た後じゃ気が散って仕方ない。それは他の2人も同じだろう。
「ま、どっち向かうか大体の話は決まってるから、細かい事はおれが引き取ろう。で、いいか?お頭」
「.........すまん、アル」
気を使う彼の言葉に、たっぷり迷ったのち甘える事にした。頭を抱えたくなる(実際にもそんな体勢だが)出来事が急に起きたものだから戸惑いは隠せない。
「透けてたな」
しばしの沈黙の後、口を開いたのはベンだった。その言葉に、ため息と一緒にあァと呟いた。
透けていた。
まさしくその通りだった。思わず踏み出して掴んだ肩は、もう何事も無かったかのようだった。だが、おれの顔を見たのだろう名前の表情が青ざめたのだ。見間違いかとも思ったがそんな反応をされると見間違いだと思いきれなくなってしまった。
「だが掴めた」
「見てた」
気を紛らわす為か、普段はここでタバコなんて吸わないのにベンがタバコに火をつける。アルもまた、何も言わずに窓を少し開けた。潮の香りに少しばかり荒れた気持ちが落ち着いていく。
一体いつから?あの反応を見る限り、名前自身も見たのだろう。昨日の時点では特段変な様子も無かったように思う。と、なれば昨日の夜から今日にかけてのどこかで?あれこれ考えて見てもどれもこれも想像の域を出ない。いくら考えたところでどうにもならない。そう思うと、やっぱり口から出るのはため息だけだった。
(あいつはこれからどうなる?そればかりが頭を支配していた)