実に浅い眠りだった。

小さな波の音一つで眠りが妨げられる。それでもやっぱり眠気は襲って来る。それの繰り返しだった。浅い眠りだから夢も見た。昼の甲板。みんなが往来する中に佇む私。それなのに誰とも視線が交わらない。誰もぶつかってきたりしないのに、誰も私を認識してないかのように行き来が繰り返される。そこで眼が覚めるのだ。その度に自分の手に視線を向けるのだ。

なんだったのだろうか。

夜、見たアレは。

ただただ、恐ろしかった。


何度も繰り返した夢と現実の行き来で、明け方だというのに眼が冴えてしまった。うつらうつらした徹夜明けの様な重だるい体。日中に眠気が来るのだろうが、興奮しているのか今は来ない。諦めて体を起こして部屋を出る。

たしか午前中には島を出るって言っていたから、ほとんどの船員は戻ってきていたはず。残った船員も、多分夜中には戻ってきてるはずだ。
ここに来て数日、さっさと顔を洗いいくらかすっきりした頭で、慣れてきた早朝の手伝いをしに食堂へと向かった。


「おはよう」

「おはようございます」

「ん?どうした、疲れてるのか?」


見るなりそう言われて、苦笑いが出た。寝付けなくて、と濁した返事にザックさんはじゃあちゃったと終わらせちまうか、と笑った。小さな気遣いで気持ちが温かくなる。私は小さく笑みをもらし、手伝いを、と袖をまくった。





粗方片付いたのは、彼の言う通りいつもよりも少し早い時間だった。時計を見ると6時半。今日は出船の為にもう船員達が眠い目をこすってぽろぽろと食堂へと来る。


「なァ」

「はい」

「ちょっとこれ、持ってってくんねェか?」


ザックさんに渡されたのはそこそこ大きなトレー。その上には3つのコーヒーとベーコンにチーズの乗ったトーストが置かれていた。


「出船だからよ。お頭達に持ってってくれ。測量室にいるはずだ」


しかもザックさんは持ってったら休んでいい、と続けてくれた。ありがたい気持ちに見え隠れする申し訳ない気持ち。でもやっぱり気を使ってくれるのはありがたい事だとお礼を言えば、気にすんな、と笑って手をひらつかせた。

トレーを持ち、測量室に向かう。一度だけ、案内がてら中を覗かせて貰っただけで、中に入った事は無い。ただ、ちらりと見えた室内には大きな机と海賊船と言うイメージからは想像できない様な大きな本棚にキレイに詰められた大量の本や書類?が印象的だった。船の航海にあたり、進路を決めるのは大事な事だという事はわかる。ただそれがどれほどまでに重要なものなのかは、私は知らない。

ふ、と息を吐く。周りと同じ木目のドアを前に、慣れない扉の先に少し緊張してしまう。2回のノックのあと声をかければ、返事で聞こえてきた声はシャンクスさんだった。








(今ではその声を聞くだけで肩の力が抜けるのがわかってしまう)












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