なんか良い事でもあったか?
そう、何人に聞かれただろうか。夕方からぽろぽろと帰ってきた船員達もまた、物資の補給も終わり今夜も宴だ!と嬉しそうに言っていた。
良い事なのだろうか。
うん、確かに嬉しいと思うような良い事はあった。
誰かに気にかけてもらう喜びは、ここで身に染みて感じた。
それが嬉しいと言えばそうだ。
ふわふわ、ぬくぬく、むずむず、何とも形容し難い気持ち。
それを見ている人は確かに良い事があったのだろうと感じるはずだ。
「よ!お頭から貰ったのか?」
「わ...!」
浮き足立って周りが疎かになっていた私は、肩を叩かれるまでヤソップさんとベンさんが近くに来ていた事にも気付かなかった。ベンさんはヤソップさんの言葉に少しばかり片眉を上げた。
「あ、はい...」
「そうかそうか」
控え目に頷けば、ヤソップさんはにかっと笑って肩をばんばん叩いた。そして小さな声で嬉しそうだねェなんてからかいの言葉も付け足して。
「お頭からなんか貰ったのか」
「はい、ビブルカードをもらいました。私と、シャンクスさんのを」
「ほぉ...」
一方のベンさんは、その言葉に息を吐く。不満?不思議?ともなんとも言えない雰囲気だった。少し心配になり眉が下がってしまうと、それに気付いたベンさんは薄っすら笑みを浮かべた。
「これで迷子にならねェな」
「?はい」
ぽんぽんと子供にするように手を頭に置かれる。自然に視線が下がり、掃除中な事もありモップを握っていた手が目に入ると、目を疑う光景に思わず息を飲んだ。
甲板が、見える...?
不思議な光景だった。私の手はまさにイメージ通りの幽霊のそれだった。私の手を超えて見えるモップの柄と甲板は少しくすんでいた。驚きで固まっていると、ヤソップさんが不思議そうに名前を呼んできた。
「名前?」
「え、は、はい!」
「急にどうした。気分でも悪くなったか?」
「いえ!いえ、大丈夫です」
不思議そうに首をかしげる彼は、さっきの私の見たそれには気づいていないようだ。むしろ私にしか見えてなかったのかもしれない。どちらかなんてわからないけれど、今また改めて自分の手を見てもどこも透けたりしている所なんて無い。それでも、どくどくと強く脈打つ心臓が先ほど見たものが見間違いなんかじゃないと主張しているようだった。
(小さな波紋がひろがる)