船に戻ったらからかわれた。ヤソップさんは、私とシャンクスさんを見るや否や、

デートはどうだった?

とにんまり笑顔で聞いてきた。予想外の言葉に、私はまさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろう。シャンクスさんも慌てたりする様子も無く、ばーか、何言ってんだ。と流していて、今度はその反応を見たヤソップさんが目をパチクリさせていた。

それから船員の人達は下船して今日はほとんどの人が戻らないだろう、とベンさんが説明してくれた。ほとんどの日常が海の上の彼らにとって、たまの陸地は好きなだけ飲み食いできて遊び回れる息抜きのようなものらしい。そんな風に言うベンさんと私の横を通り過ぎた船員達が、あっちの方は良い女がいるらしい、なんて会話をしながら過ぎた。ベンさんは眉を寄せたけれど、私としてはなるほどと納得してしまった。なんて言っても男所帯の中でいつも過ごしていれば島でくらいそういった所に行きたいだろうと。そうやんわり言えば、ベンさんもまた少しだけ目を瞬かせていた。


それが夕方、日が沈む直前の話。


「本当に静か...」


そして今、大体夜の8時を過ぎたくらい。ザックさん達厨房班の人達も島に降りていたので夕飯は自分達で適当にと言う事で、とりあえず買ってもらった荷物の整理をして、シャワーを浴びた所だ。確か何人かは船番で残っているとは言っていたけれど、いつものがやがやとした静けさは全くといって良いほど無い。シャワーに向かう為に部屋の外に出たは良いが、人の少ない船内であまり火を使いたくないから、と飛び飛びでつけられた廊下の灯りが薄暗くて怖かった。

ぎし、ぎし。

いつもなら気にも留めない床材の音が嫌に反響している気がした。耳につくその音で、温まった体が気温などとは違う意味で冷え込む。


「やっぱりいたか」

「ひいっ...!!」


思わず出かかった悲鳴を何とか抑え込めたのは、その声が聞き慣れた声だったからだった。振り返れば、ランプの揺れる明かりに照らされた赤髪。ばくばくと大きく打ち付ける心臓をなだめるように深呼吸をする。


「驚かせたか?」

「いえ...、まァ、はい」

「人が少ないからな。怖かったのか?」


少しばかり人の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる彼に乾いた笑いを返した所ではた、と気付いてどうして船に?と聞いてしまった。


「負けたからだな」


あっさりと笑って言う彼を見て、あァ、そういえばと思い返した。私と戻ってから、シャンクスさんは船員達とカードゲームの様な物をしていたが多分それの結果がこうなのだろう。合点が行くと、思わず彼の髪、瞳と順にじっと見る。


「...どうした?」


聞いてくる彼に返事はしなかった。聞こえていたけれど、聞き流してしまったのか、見る事に集中しすぎたのか口が開かなかった。



あの時、海沿いを歩いている時に感じた感情が知りたかった。



あちらでは見た事も無い、黒味がかった赤い髪に、暗い色の瞳は髪と同じく少し赤味ある気がする。ランプの明かりに照らされたそれは、夕焼けの中のような鮮やかさは無いものの、落ち着いた雰囲気を纏い、また違う一面を見せているようにも見えた。


「名前?おーい」

「あ...、はい」

「疲れたか?それなら早く休め、」

「シャンクスさん」


伸ばされた手を取る。彼は少しばかり驚いたように目を開いた。初めて触れたその手は、ごつごつとしてお世辞にもキレイな手とは言い難いのに、容易く私の手を覆ってしまえるほどの大きさだった。



「どうしてこんなに世話を焼いてくれるんですか」



私は何も持っていない。何も返せない。

掴んだ彼の手は私の両手でも少し余るくらいだ。考えがまとまるよりも先に口から出た言葉は戻って来ない。彼の表情は見れないが、気まずさはない。


「私は、この船どころか、ここでは子供以下の知識しか無い。身体が特別丈夫なわけでも、船のみんなみたいに何か出来る事があるわけでも無い。それなのに、どうして」

「名前、少し外に出て見ないか?」

「え?今は、」

「少しだけだ」

「......はい」



私の問いかけに答えるわけでもなく、シャンクスさんからの提案に私が渋った後に頷けば、彼は逆に私の手を取り楽しそうに行くぞー!なんて歩き出した。

途中、食堂からお酒を持って行くのももちろん忘れずに。










(どうしてか、なんて)














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