買った荷物は、シャンクスさんが持ってくれている。私に比べればずっと大柄な彼が持つと、買った量がとても少なく見えた。


「こんなんで良いのか?」

「はい、充分です」


心配そうに訊ねる彼の女性に対するイメージはどうなっているのだろうか?少し派手な感じの女性?と思ってしまいそうなくらい、女は荷物が多いんだろ?だなんてきょとん顔で言っていた。


「これっぽちしか無いじゃねェか」

「えぇ...。着替えも、時計もありますよ?」


部屋に置く時計も買った。ふらふらと散策した雑貨店の店頭に置かれた少し埃をかぶった時計。売れ残っていたのだろうか、値段を赤ペンで上から書き換えられていたそれを見て、これだと思った。私が、使っていた時計によく似たそれは、何の特徴もない丸い形の置き時計。白色のそれは文字盤もシンプルだ。選んだ時はシャンクスさんはもっと良いのじゃ無くて良いのか?なんて言っていたけれど、これ以外に欲しいと思う時計が見つかるとは思えなかった。

何よりも、ほとんど同じ見た目のその時計が私が違う所から来たんだ、と再確認させてくれるようだった。

それは、ただの私の自己満足だ。向こうとの繋がりが薄く、か弱い中で見つけた共通点を多く持ったそれを拠り所にしていたいのかもしれない。ただの時計一つにも縋りたいほどに疲弊してるのかもしれない。それでも、私が使っていた時計に似ている、と言えば彼はそうか、とそれ以上は何も言わなかった。


「もう、日が暮れるんですね」

「あァ、よく見えるな」


買い物帰りの散策がてら、海沿いのブロックで舗装された道を彼が海側に私は街側で並んで歩く。遠いはずなのに近くにも見える地平線に沈みかける夕日。反対の空は、もう夜の顔を色濃く映していた。


「島はどうだった?」

「初めて見るものばかりで...、驚きました」

「ははっ、そうか」

「でも...すごく、面白いです」


思わず思い返して笑みがこぼれた。すると隣から笑うような息遣いが聞こえてきて、シャンクスさんに顔を向ける。



「そうか。良かった」



思わず、息を飲んで立ち止まってしまった。

それは、青空の下に映える赤い髪が、今は夕日に照らされていつもよりもずっと濃く鮮やかに見えるから?


それとも、普段の豪快な雰囲気とは似付かない優しい笑みが向けられていたから?



「...さ、暗くなる前に戻るか」



根っこが生えたかのように、足が動かない。身体全部が自分のものではなくなったみたいだ。

なぜだろう、視界が滲む。それが涙だとすぐにわかった。だからそれが流れないように奥歯を噛み締めた。


「名前?」



少しだけ心配そうに顔を覗き込む彼の鮮やかな髪が視界に入った。私は、それに答えるように笑みを浮かべて、大丈夫だと首を振るだけしかできなかった。






この胸に迫る感情は、何なのか私は知らなかった。









(世界は色濃く鮮やかで、それはとてもとても美しいものなのだ)













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