島に降り立ったのは、もう日暮れ近い時刻だった。それでもまだまだ(視界のかなり先だが)メイン通りの人通りは多く、あちらこちらから元気の良い声が交錯してとても活気のある島だと思った。
「っと...!」
数日間、船に揺られ続けた体は、急に揺れない地面に降りて戸惑っているのだろうか。船から降りた数メートルは、ふらふらと危ない足取りだった。
「転ぶなよ?」
「ありがとうございます...」
それを支えてくれたのはシャンクスさんだった。島を歩く時は、誰かと一緒に。その誰かを買って出てくれたのは彼だった。それについては、本当にありがたい申し出で、間髪入れずに承諾した。
「石畳みだ...」
「珍しいか?」
「少し...。外国に来たみたいです」
歩きながら辺りを見渡す。メイン通りと思われる通りに入れば少しづつ人が増え道行く人の服装はカジュアルな普段着からスーツまで様々。日本に近いとは言えないけれど、全く共通点が無いと言うわけでも無い光景に少しだけ安堵した。
「お、お嬢ちゃん、甘いお菓子でもどうだい?」
きょろきょろと見回していると、元気な中年の女性店主に声をかけられた。お店の看板やプレートに書かれた言葉は...英語?のような、私にはよく読めず、伺うようにシャンクスさんを見れば笑って背を押してくれた。
「この島限定、ここにしか居ない羊のお菓子さ」
「羊のお菓子...?」
「あァ!そりゃあもう甘くて美味しいよ、一袋どうだい?」
「え、でも羊って...?え?」
「もらおうか」
「はいよ、ありがとね!」
戸惑う私を他所にシャンクスさんが買ってしまった。だって、おばさんの後ろには紐でつながれた羊が数頭居るだけで、お菓子らしきものなんて、と思っていると、おもむろに彼女は袋とハサミを持って羊の毛を刈り出した。
「え!?毛!」
「なんだい、お嬢さん知らないのかい?こいつらは綿羊って言って、この島の固有種さ」
そう言いながら渡された袋は可愛らしいテープで口が閉められ、中にはもこもこの塊がいくつも入っている。
「こいつらの毛はそりゃもう甘いんだよ」
「毛が...?」
「そうさ、ほら一口」
「あ、ありがとうございます...」
手渡された塊は間違いなく毛玉だ。そう思える感触で、うっと口に入れるのを躊躇してしまった。でもおばさんはにこにこ、シャンクスさんは...にやにやしてるがこちらを見ていて食べないわけにもいかない。意を決して毛玉(仮)を口に含むと、ふわりと溶けて消えた。
「すごい...!」
綿あめと同じか、もっと舌触りが悪いだろうくらいにしか思えなかったが、口溶けはさらさらのかき氷のように消えて無くなり思わず声が漏れた。
「気に入ったか?」
「はい...!とって、も...!?」
シャンクスさんが、にやにや顔から微笑みに変わり、顔を覗き込んでくる。私も初めて尽くしの食べ物に思わず鼻息荒く答えてしまった事、シャンクスさんが予想以上に柔らかな表情をしていた事にはっと気付いて顔が熱くなった。
「...じゃ、買い出しに行くか」
「は、はい」
そしてさして気にした様子も無く、店主に礼を言って歩き出す彼を追いかけるように私も足を動かした。
(すごい。あまりの違いに、それだけが口をついて出た)