波の音。潮の香り。揺れる体。遠くで聞こえる話し声。ゆらりゆらり、浮いては沈む意識が少しづつクリアになってくる。なんだか暑い。ん、と小さく声を出して、寝ている体を起き上がらせようと手を動かそうとするが、背中側に回っていた腕の動きは何かに阻まれた。
乾燥している何かが、手首にあった。それのせいで、上手く腕が動かないのだ。そのせいで起き上がれないまま、けれど意識は鮮明になってきて、目を開けると、照りつけるような太陽の前に立つ人影が目に入った。
「起きたか、お嬢さん」
「え...?」
その人影は、私が起きたと気付くとしゃがみ込む。日を遮るものがなくなり、眩しさに開いた目をまた薄くさせた。
「さっそくで悪いんだが、なんでここにいるのか教えてくれねェか?」
聞いているのに、有無を言わさないその声音に思わず体が固まった。逆光で見えにくいが、麦わら帽子を被ったその人物は、嘘は許さないと言わんばかりの圧力のある声に、あ、と意味を持たない音だけが口から漏れた。
「島を出る時には居なかったはずだ。どこから潜り込んで、どこにいた」
能力者か?とも付け足された彼の腰には、サーベルがあり、その柄には手が置かれていた。思わず体が震えだした。
「あ、えっ...?」
島?能力者?
わからない事ばかり聞かれ、さらにその迫力に気圧されて、何も言葉が出てこない。暑いとすら思っていたのに、今では体の芯まで冷えてしまったかのように指ひとつ動かせない。
そんな私の様子を見てか、麦わら帽子の彼は片眉をあげた。おかしい、とでも言うように。
「お頭」
煙草を加えた大柄な男に呼ばれ、ようやく私に注がれていた視線が外れた。それだけで、どっと体から力が抜けた。
あれは、恐怖だ。
「ベン、どう思う」
「何とも言えねェが、」
そして、向けられた視線に、私はまた体を強張らせた。怖い。一度自覚したその感情ばかりが身体中を駆け巡っているようだ。
「ここじゃ落ち着いて話もできねェようだ」
「あァ...。とりあえず中に連れてくか。立てるか?」
煙草の男性に同意し、お頭と呼ばれた麦わら帽子の彼は、今度はあの威圧感を与えぬ明るさを出しながら、左手で私を立ち上がらせた。
「は、い...」
まだ膝が笑っている。さっきまでの威圧感が嘘のようになりを潜めているが、体はまだ覚えているようで震えは収まってはいない。それでも、彼はそうかと薄く笑った。
(感じた恐怖は夢にしては、あまりにも鮮明だった)