「なぁ」

「ん?」


図書室での課題中、不意に話しかけられた。彼はとっくに課題は終わっていて、暇を持て余していた様で図書室の中をうろうろしていた。まぁ、良い事を考えていたわけじゃないのだろうが。ガタン。私の隣の椅子を動かして座る。


「スカート、短くねぇか」

「!!」


ぺら、とスカートの裾を掴んで軽く持ち上げられた。


「し、信じられない!」


彼の手からスカートを外し、そしてついつい大声を出せば周りから、特にマダムピンスから厳しい視線が注がれた。咄嗟にシリウスの腕を引っ付かんで外に出る。それでも廊下でも人の視線は痛くて、腕をぐいぐい引いて空き教室に突っ込んだ。


「何て事するの!」

「何って、」

「あ、あんな人のいる所で…!」


思い出しても恥ずかしい。そんな人の気も知らずに、逆に腕を引かれて抱き締められた(なんで!?)胸に手を当てて押し返すがびくともしない。


「じゃあ人のいない所なら…?」

「っ!ちょっと…!」


するり。太ももの辺りを這う様に撫でられる。その手付きも、囁きも、こういう事に慣れているのが嫌だなんて。他の人に、こんな風に優しく触れて、甘く囁いたの?そんな思いに駆られたら、なんだか悔しくて、少しだけ涙が滲んだ。


「……言っとくけどな」

「ん…」

「自分から抱き締めんのも、触んのも、全部初めてだからな」

「…………嘘よ」

「おま…!」


雰囲気を察したシリウスが言う。拗ねた様な声音につられて見上げれば、珍しく顔を赤くしていて、手の置いた胸の鼓動は激しくて、それだけで、今さっきまでの混沌とした気持ちはきれいさっぱり洗われていた。我ながらなんて現金なんだろう。


「なんて。嘘、嬉しい」


ごめんね、そう言って笑うとシリウスは苦虫を噛み潰した様な表情から、柔らかな苦笑に変わって、


「覚えてろよ、なまえ」

「ん、」


触れるだけの、キスをくれた。





(でもスカートは捲るのはやめて)
(あんな短いのひらひらふわふわさせてたら気になんだろ。男なんだから)
(そ、そんな短くない!)
















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