「おはようございます」


今日もか。
声には出ずともその表情には如実に現れていた。それににこりと笑顔で返せば、はよ、と小さく返事をくれた。それに益々笑みを深めればそれを横目で見ていた黒尾先輩はやれやれと言わんばかりにため息を吐く。


「毎朝毎朝ご苦労サマ」

「好きでやってますので!」

「あっそう…」


朝練を終えた彼の首筋には薄らと汗が滲んでいて、それを見上げながらにまにまと笑っていれば何笑ってんの、と前を向いたまま声をかけられた。それに、ばれた!と驚けば黒尾先輩は穴空きそうと笑っていた。


「色っぽいなと思って見てました」

「オッサンか」

「黒尾先輩のためなら中年でもなんでもなります」

「性別は超えられないデショ」


馬鹿だねぇ、なんて体育館から教室までの道のりを付き纏うようになって早1ヶ月。最初こそ驚いていた黒尾先輩も今では慣れたもので、それが嬉しい。もちろん、毎朝捕まえられるわけではないので目標は毎日なのだが、この様子を見ていた孤爪くんには呆れられてなんでクロなの?なんて言われる始末だった。


「頑張りますよ、私」

「他のことがんばんなさいよ。テストとか。ヤバかったんでしょ」

「え!なん…、あ!孤爪くん!!」

「そ。ギリだったらしいじゃん」

「黒尾先輩が頑張れって言ってくれたら頑張れます」

「ガンバレ」


はいはい、とあしらうような言葉ではあったが単純な私は頑張ります!と声を上げる。思っていた以上に出たその声量に驚いた黒尾先輩がビクッと肩を揺らしていたのが面白くて、声を上げて笑った。


「単純」


くっくっと笑う彼を見ると胸がきゅんと締まるような感覚になる。早々に好きだと伝えてはいるし、全身全霊で態度にも示しているけど彼はのらりくらりとそれをかわす。でもやっぱり好きで、笑ってくれたら私も笑顔になってしまうんだから黒尾先輩はすごいのだ。


「私、次のテスト満点とります!」

「そ。頑張って」

「はい。ふふ、やったぁ」


頑張って、だって。点数がバレていたのは少し恥ずかしいけど、でもやっぱり嬉しくて、にやける頬を両手で押さえてむふむふと笑っていれば視線を感じた。横を見上げれば黒尾先輩がこちらを見下ろしている。


「なまえちゃんも物好きな子だよな」

「急な悪口!?」

「正直な感想デス」


俺の何が良いんだか。
そう呟いて前を向く黒尾先輩の腕を掴み、歩くのを止める。


「顔です!」

「そんなストレートに顔って言う子いるんだなぁ」

「あとブロック決まった時の嬉しそうでいてちょっとどやってなってる顔も、練習後の汗ばんでる姿も色っぽくて好きです。みんなと話してる時の楽しそうな声も聞こえるときゅんってしますし、こうやって私が付き纏っててもなんだかんだで相手してくれる所も優しいなって思ってます。それにっ、」

「はーい、ストップ。止まって。こんな公衆の面前で言われるとさすがの黒尾サンも恥ずかしいって思うんだからね」


少数とはいえ他の生徒が居る。黒尾先輩が口を塞ぐように手を当ててくることで言葉は途切れたが、初めて触れてきてくれた(と言って良いのかは置いておいて)ことが嬉しくてすんすんと匂いを嗅いでしまう。黒尾先輩の手大きいな、とかこの手でいつもボールに触れてるんだ、とか。


「手ももっと好きになりました!」

「俺の話聞いてた?」


黒尾先輩の手を堪能したあと、私の両手でべりっと口元から剥がしていえば呆れたように言われてしまった。


「意外と恥ずかしがりなんですね、素敵だと思います」

「あっそう…」


気疲れです、と言わんばかりに黒尾先輩がため息をつき歩き始める。それをちょろちょろと後追って話し続ける私は、少なくとも黒尾せんに嫌われているわけではないのだろうと笑みを深める。


「私、黒尾先輩が思う以上に黒尾先輩が好きなんですよ。知らなかったんですか?」

「………肝に銘じておきマス」











(黒尾先輩!満点じゃなかったけど98点でした!)
(マジか)
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