■ 爆豪くん
「あ、ばくごーくん」
まだまだ寒さを感じる夜。
自習をしていたけれどどうにも集中出来なくなったので、外に出て散歩をしていた。そろそろ寮へと戻ろうかと思った時、爆豪くんの姿が見えて声を出した。相変わらずの不機嫌顔でこちらをちらりと見ると興味なさそうに視線を前に戻す。それを気にすることなく隣に立てば大きく舌打ちが返ってくる。
「おかえりなさい。今日カレーだって」
「そうかよ」
「ぴりっとしてて爆豪くんの好みかも」
返事はなかった。
私の独り言のようだ。それでも黙れとかうるせぇって言われないから構わず話し続ける。
「女子もおかわり続出でねー、まぁでも美味しかったから気持ちわかるんだけぶっ!」
「前見ろノロマ」
うんうん頷きながら話していると横にせり出ていた枝が顔の高さだったものだからよそ見をしていた私はしっかり顔から突っ込む。それを見ていた爆豪くんはちゃんと避けているから距離がある。気づいてたんなら言ってくれれば良いのに...。
「葉っぱ口入った」
「よそ見してっからだ」
「うっ、すごい苦い!」
「食ってんじゃねぇよ」
葉っぱのかけらが口の中に残ったらしくエグ味というか苦味というか、そういうのがすごい口の中に広がる。苦々しい顔になってしまう私に対して、それをちらりと見た爆豪くんは変わらずの反応だった。
「あっ、すごいピーマンと春菊って感じがする」
「馬鹿か」
てくてく歩き、髪に絡まる葉っぱを取りながら味の感想を言っていれば、そこはもう寮の前。中からはがやがやとした声が聞こえる。みんな談話ルームにいるみたいだ。
「まだ付いてんだよ」
ぱ、と私の頭に伸びた手が葉っぱを掴んでぽいっと捨てる。それににまにまと頬が緩んだ。
「かっちゃんてば世話焼きさーん」
「爆破すんぞテメェ」
「いった!」
ばちん!と音が聞こえそうなほど、というか聞こえたくらいの力で額を指で弾かれた。痛みに立ち止まり、涙目でさすっていれば、寮の扉の前で立ち止まってる爆豪くん。待ってくれてるのかなぁ、なんて思うと、痛いけど、やっぱり頬が緩む。
「何だかんだで優しいなぁ」
「あ?」
「んーん」
不機嫌極まりないといった表情なのに、ちゃんとそこで待っててくれるのだからにやにやと締まりのない顔になるのは仕方がない、とそのまま止めていた足を進めた。
(ツンデレなんだからー)
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