■ 出久くん
*未来設定
プロヒーローは忙しい。出久くんも例外なく忙しい。というかどちらかと言えば引っ張りだこなのでほとんど家には戻らない。しかもここ数年は国内外を飛び回るようになり、最近は軽く数ヶ月単位で戻ってこない。
だからたまに帰って来たのを確認すると、珍しさから嬉しいよりも先に夢かな?と思ってしまうほどだ。
「おはよう、名前ちゃん」
日の差し込むリビングでにこにこ笑みを浮かべ、朝食の用意をしてくれている出久くん。それに対して私は寝癖がついたままのまだ働かない頭でその光景を見て首を傾げてしまった。
「あれ...出久くんがいる...?」
「うん、ただいま」
「おかえり、なさい...」
寝ぼけてるの?ほら、顔洗っておいでよ。なんて笑ってタオルを渡され、背中を押される。言われるがまま、洗面台の前に立ち、顔を洗い、歯を磨き、と身支度が整っていくに連れて頭もはっきりしてくる。
出久くんが帰って来た。
覚めてきた頭がようやくそれを認識すれば、寝癖を直そうかと手に持っていたクシをそのまま元の位置に戻して慌ててリビングに向かった。
「出久くん!」
ばたばたと忙しなくリビングの扉を開けると、そこには美味しそうなフレンチトーストを乗せたお皿をテーブルに置き、私の様子に苦笑いを浮かべる出久くんの姿。
「おかえり!」
その勢いのまま飛びつくように抱きつけば、全く押される事なく受け止めてくれた。さすが活躍中プロヒーローは違う。
「ただいま、名前ちゃん。目、覚めた?」
「うん!おかえりなさい!」
ぎゅうぎゅう抱きつく私に笑い混じりで背中を撫でながら返事を返してくれる出久くん。本物だ!とさらに私の気分は上がっていく。気分はさながら飼い主にじゃれる犬のよう。
「今日は?おやすみ?」
「そうだよ」
首元にしがみついたまま話しかければ、出久くんが穏やかに返事をしてくれる。その時に、耳の横でリップ音が小さく聞こえた。こういう事をナチュラルにするのはオールマイト譲りなのだろうか。
「だから今日は一緒にいようか」
「ふふ、やったぁ」
ようやく腕の力を緩め、にやにやと緩む頬を隠さずに言えば、出久くんもにこりと笑みを返す。そのまま前髪をかき上げられると額にキスを一つ落とされる。外国か!と思わず突っ込みそうになってしまったが、久しぶりに会えた喜びの方が勝ったので、お返しに同じことをすれば、少し照れたような出久くんの表情に私は大満足なのだった。
(たまの休日をともに)
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