06



それは2日目の午後だった。

街中に戻ってもお金も何もない私は、ただただ海岸でうずくまり潮風に吹かれていた。喉が渇いた。お腹すいた。延々と潮風に当たってるせいで髪も服も肌もべとつく。幸いなのは温暖な気候なことだけだった。

街に戻る。

考えないわけではなかった。というか、今も考えている。でも着の身着のままの薄汚れた女など、誰もが不審がるんじゃないか?警察?に捕まってしまうかも?ぐるぐる同じ問答を繰り返していた。


何より、離れがたかった。ここから。


ビブルカードの示す先に彼がいるのだと思うと、ここを離れることもためらわれた。あァ、だめだ。また頼ってる。ここにいない人にまで。うとうとして、目を覚まして。早くも限界だと思った。飲まず食わずで海風に当たり続けるなんて、バカにもほどがある。早く街に行って、優しそうな人を見つけて(見つかるかもわからないけれど)助けて貰えばいいのに。

でももう、動き出すことすら億劫だった。幼い子供のように、膝を抱えて、少しでも風が避けれて、それでいて示す方向が見える場所に座っていた。

太陽が昨日と同じく海に向かって行っている。もう間も無く夜の顔をするだろう。人っ子ひとり通らない場所で、私は何を待っているのだろうか。暇で疲れで、働かない頭が意味もなく忠犬ハチ公を思い出す。あァ、こんな時になんて下らないことを思い出すんだ。


うつらうつらと、意識が沈んでは浮かんでを繰り返した。




「ん?」


なんだありゃあ。

そう呟いたのは他の誰でもない自分だった。下船の準備を進めようと船員達があちらこちらを走り回っている時、ふと見えた海岸沿いの人影。動かないそれは一瞬岩かなんかかと思ったが、よくよく見てみれば人であることが確認できる。


「ちょっと借りるぞ」


ちょうど良いタイミングで横を通った奴から単眼鏡を借りる。目視じゃ見えなかったが、それが確実に人であることと、うずくまってわかりにくいが、おそらく女であることがわかった。身なりから察するに奴隷の類ではなさそうだし、まず前情報からこの島は比較的治安もいいはずだ。はて、と首を傾げた。もう一度覗き込んで見てみると、もぞもぞと動いているのがわかった。死んじゃいないようだ。


女が風に乱れる髪をイライラと乱暴に撫で付ける様子を見て、思わず声にならない声が、口から漏れた。


「は....」

「あ!何してんすかお頭!」


ぼちゃ。
小さなしぶきを上げて海に沈んでいった単眼鏡を見て、隣の船員が声をあげたのがわかったが、はるか遠くに聞こえていた。






あれは、なまえだ。





(これは現実か?)

 

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