04


聞き慣れた波の音に見慣れた空の色。新世界に入ってもう結構経つが今日は中々に穏やかな航海である。今のところは、と付け加えることになるのはもう少し後だったが。


「もう少しかかんのか...」


右を見ても海。左を見ても海。空を見上げても青。いやいや、それが悪いとは言わない。だがうちの航海士は今日中には島に着くと言っていた。だからこそそれらしい指示を出して島をいち早く見たくて甲板にいるのだ。しかし午後を回ってしばらくした今の時刻は快晴な天気とは裏腹にもう5時を指そうという所だ。甲板の縁、手すりに肘を置いて海を眺める。もう随分とでかくなった自分の船は前ほどに波の揺れの影響を受けず、水面を随分と下に見下ろすようになった。だからこそ船内は広い。つまり執務中だったとしても容易く抜け出せるし、しばらく見つからない。ベンに見つかれば引きずられて戻されそうではあるが。


「っと、」


海風にはためく上着の裏ポケットには、いつか居た少女のビブルカードが後生大事にしまわれている。我ながらおかしな話だと思う。もう10年以上前にたかだか数日寝食を共にしただけの存在の彼女の痕跡をまだ持っているなんて。

いい年して何してんだ気持ち悪いとか言われそう。

なんでそこまで執着しているのか自分でもわからない。まずこれが執着なのかももはやわからない。それでもあれから航海を続け、船も大きくなり、船員も増え、色々な不思議なものをこの目に見て来たが、異世界から来た、なんて奴は彼女の他に知らない。そう、そこだ。珍しいものを、おれが知っている。もちろんおれだけじゃなく、古参の奴らも知っているが。それは少しばかりの優越感と、今手元に存在しない不確実さを追い求めているのだろうか。なんだ、海賊らしいじゃないか。比較的穏やかに過ごして来たからか、誰かに目をつけられる事もなく今まで来ていたが、やはり自分は海賊だったのかと改めて自覚する。いや、自覚するまでもなく海賊なのだが。

不思議と気分が高揚していくのがわかった。それは視界の端に映る島影のせいだからだろうか、懐かしい記憶を思い返していたからか。

さて、甲板からも島が確認できたってことは全員下船の準備に取り掛かり始めている事だろう。今夜は宴だ。自然と笑みを作る口元に手を当てながら、船内に続く扉を開けた。






再会はすぐそこに

 

[back]













×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -