03


夢を見てから早ひと月が経とうとしていた。あの頃はちょうど梅雨の真っ只中でしとしとと降り続ける雨に少しばかり気分が滅入っていたのかもしれない。だから過去を懐かしむかのような、あんな夢を見てしまったのだろう。そう1人納得させて、変わらぬ会社と自宅を行き来する日々を過ごしていた。

ただ、懐かしさを感じたのは事実で、私は例によって所々汚れが目立って来たその紙を眺めることが増えていた。特に一人暮らしをしていて隙間隙間に時間があると、特に何があるわけでもなくぼうっと眺めている確率が高い。

ただの紙な事もあり、本当に小さなケースに入れるだけではあるが、それを持ち歩いているとやはり不意に目に入る事はあるし、目に入ればついつい見入ってしまう。今までこんな事は、病院で目を覚ましてからの数週間だけだったし、今では期待のような気持ちは米つぶ程度、ほとんどが惰性で持っていたようなものこんなにもまた眺める時が来るとは思ってもみなかった。しかしながら未だに感情移入をしていた自分にも驚いたものだ。

がたんごとん。と不規則に揺れる電車の中でケースを持ち眺めている女など珍しいだろうが、いかんせん週半ばの終電間際の時間ともなればあまり人もおらず、都会ならではの中々に広い距離感で1シートに1人程度しかいない。そして時間的にも、心地よい揺れ的にも、なんとも眠気を誘う。思わずうとうとと船を漕いでしまう意識の中で、鼻孔をくすぐった潮の香りは眠気に負けそうな私の意識を取り戻すまでには至らず、最後に聞いた音は膝の上に乗せていた鞄がぼとり、と床に落ちる鈍い音だけだった。





眠りの先に待ち受けること


 

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