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シャンクスさんに、纏まらない考えながら全てを話せば、割とあっさりそうだよな、と頷かれ、それはもう想像以上の肩透かしをくらった。


「...本当に、私のビブルカードなんですね」


ごそごそ動くそれを見て呟けば、シャンクスさんは気恥ずかしいのか眉を寄せて顔をしかめていた。その表情に可愛い、と思ってしまった。


「...我ながら未練がましいと思ったこともあったけどな」


そう言いつつ、肩から羽織っているコートの裏側のポケットにしまい込む。流れる様な動作に慣れた動きであることが伺えた。

大事に持っていてくれたのか、となんだかむず痒い気持ちに頬が緩んだのを見逃さなかったシャンクスさんが指で小突いてきた。


「笑うな」

「だって、」


ふふ、と堪えきれない笑いが漏れた。拗ねたように見つめてくるシャンクスさんに小さく謝るも、不服そうだった。その反応に、私の笑いは収まりそうにない。


「良いから、帰るぞ」


差し出された手を見て、シャンクスさんの顔を見た。あまりにも自然に差し出されたそれに、思わず彼の手と顔を見比べてしまった。それでも特にどうと言う意味はないようで、きょとんとするシャンクスさんがもう一度、促すように手を揺らした。


「天然ですか?」

「何がだよ」


わからん、と言わんばかりの彼の様子を横目で見ながら、指を絡めるように手を重ねてみるも普通に握り返され、逆にドキッとしてしまった。海賊というに相応しい、少しかさついて骨張った大きな手が簡単に私の手を覆った。


「ズルい...」

「伊達におっさんになってねェからな」

「........女遊びが、」

「違うからな!」


ぼそりと呟いた言葉を拾ったシャンクスさんが、遮るように声を上げる。と、あーだこーだと慌てて言い訳のように言葉を重ねてくる様子が面白くて思わず吹き出してしまった。


「...なまえの方がよっぽどズルいじゃねェか」

「や、すみません。そんなに必死になるとは思わなくて」


彼のジト目から逃れるように顔を背けて口元を手で覆う。子供のようにあからさまに拗ねてしまったシャンクスさんに謝る。

2人で海岸を目指して歩く。まだ高い位置にある太陽が彼の髪を照らせば、いつか見た光景を思い返して目を細めた。


「私、シャンクスさんの髪好きなんですよね」

「なんだよ、急に」


シャンクスさんの髪を見ながらの唐突な私の言葉に、彼は数回目を瞬かせたあとに笑う。きらきらしている。そう思った。


「あと、くしゃって笑う顔も」


それと、立ち寄った島々の話を楽しそうに目を輝かせてするところ。

海賊なんて怖そうなことをしているのに、仲間思いで無用な争いをしないところ。

豪快で大らかな性格なのに、意外と人の様子を伺っていて、違う世界から、なんて荒唐無稽な話をする怪しい女の心配をしてくれる優しいところ。

何年も、馬鹿みたいにそんな会えるかどうかもわからない私のビブルカードを持ち続けてくれたところ。


「おいおい、どうしたんだよ」


恥ずかしそうに笑うシャンクスさんが眩しくて。そういえば、ちゃんと言っていなかった、言えていなかったな、と今までに会話を思い返した。


「好きです、シャンクスさんが」

「は、」

「初めて会った時から、ずっと」


くん、と軽く手を引っ張って立ち止まる。まっすぐに見上げて言えば、驚きに目を見開いたシャンクスさんが呆然と見下ろしていて、面白くて笑いが漏れてしまった。


「私もずっと、ずっとシャンクスさんのビブルカード持ってたんですから。知ってますよね?」


ぽかん、と口を開いたまま固まっているシャンクスさんの手をするりと抜けて前に立つ。は?と間の抜けた声を出した後に、少し顔を赤くしたシャンクスさんが、空いた手で口元を隠した。


「私がまたシャンクスさんに会いたいと、ずっと思っていたのは、そういう事ですよ」


言っていて恥ずかしくなってきて、くるりとシャンクスさんに背を向けた。少し冷たい海風が、火照った頬を撫でていく。と、後ろから力強い腕に体を引き寄せられた。


「おれもだ。先、越されちまったな」


あーあ、格好つかねェな。

そう言って笑う声が、穏やかに耳に届く。その声に、視界が滲んでいった。

















(それは何度諦めかけ、どれほど望んだことだっただろうか)


 

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