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悶々。
この2文字が、今の私にはぴったりだと思う。
時々吹く風に髪を整えつつ、ゴミ袋に昨日の宴会の跡を入れていく。瓶は適当な箱に詰めて、島の酒屋に持っていくらしいのでぽいぽいと入れていく。食器類だけはほとんどない所を見ると、ザックさんの教育?の賜物なのかもしれない。
ふ、と息を吐いて地平線を見る。どこまでも広がる海だ。それを照らす朝日で、海がきらきらと光っている。たまらなくきれいな景色だ。静けさの中にあるそれは、見ているだけで涙が浮かんできそうなほどだ。
会えた。嬉しい。
でも、これからどうなるの。
拮抗する気持ちは、前と同じ。あんなにも彼に縋りついたというのに。あんなにもシャンクスさんに会いたいと思っていたのに。いざとなると臆病風に吹かれる私はずるい。どっちつかずの情けない私。
浮き足立っていた気持ちも、しょんぼりと萎んでいく。もしかしたら同じ気持ちだったのでは?なんて少しでも思った自分はもうどこへやら、だ。一人黙々と片付けているうちに、気持ちも落ち着いたらしい。
ぼんやりと海を眺めていた。波の音だけが耳に届く。すると、急にがたん、と扉の開く音に悲鳴が喉まで出かかった。でも身体は、素直に反応してしまって肩を揺らし、心臓も跳ねていた。
「いた...!」
振り返れば、そこにはシャンクスさん。ほんの少し慌てた様子のそれを見て首を傾げれば、肩から髪が風になびいた。
「あの、どうかしましたか...?」
「いや、そのー...、あれだな。うん」
歯切れの悪い言葉、右腕で自分の髪をくしゃくしゃにしながら視線を泳がす。そこであぁ、昨日の?と思い顔がぶわっと熱を持った。
「心配?になってだな」
「はぁ...」
的を得ない表現に、ますます首を傾げる。無言を含めた間に、熱が少しずつ冷めていく。
「大丈夫ですよ...?」
なので思わず、とりあえずの大丈夫を伝えれば、シャンクスさんもそうか、とわざとらしく咳払いをする。
「............」
「............」
「......悪かった!」
「えぇ!?」
偶に交錯する視線。身体だけはしっかりと向き合ったまま、少しの間を置き、急にシャンクスさんが謝るものだからこっちまで驚いてしまう。
「昨日、酔ってたとはいえ...」
「ああああ!良いんです!気にしないでください!」
シャンクスさんが謝ろうとしていることがわかり、慌てて止めに入る。気にしてないわけじゃないけど、謝られるのも複雑な気持ちだ。私の慌てた様子に、シャンクスさんが気圧されて言葉が止まるのを見て、ほっと息を吐いた。
「良いんです。シャンクスさんが気にすることじゃないんです」
「お、おォ。そうか...」
念を押すように言えば、シャンクスさんは納得?してくれたらしく、その話題は終了となる。と、次に目が止まったのは、私が持っていたゴミ袋のようだった。
「悪い。後片付けが」
「良いんです。目が覚めちゃったので。それに、」
海も見たかったので。
そう呟くように口を開き、視線を海へと向ける。もう日は登っていた。それでも揺れる水面が映す光はとてもきれいだ。
「好きだな。よく見てる」
「...そうですか?」
「あァ」
それは多分、私の中で海がシャンクスさんと切っても切り離せないくらい強く印象付いているからだろう、とは恥ずかしくて言えなかった。代わりに、好きなんですよね、と呟けば、シャンクスさんもおれもだ、と同意してくれた。
(海を見るあなたの視線が好き)
(なんて言えないけれど)
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