10



シャワー浴び、だいぶすっきりした。さっきより頭も冴えてるし、たぶん、飲ませてくれたのがスポーツドリンクのようなものだったのだろう、喉の渇きも無い。お腹は空いてるのだろうが、現状にびっくりしているのか今のところおとなしい。

小さめのバスタオルだったので、そのまま肩から掛けてシャワールームの外に出る。扉の横にはシャンクスさんがぼう、っと立っていた。それを見てなんだかむず痒く感じた。


「お、すっきりしたか?」

「はい、おかげさまで」


へらりと笑ってしまう。頬が緩んでしまう。それにシャンクスさんは、ん、と頭を撫でた。あんなにも不安で寂しくて怖かったのが嘘みたいに消えて行く。現金な女。自分でそう思った。

促されるままに歩いていると、元いた部屋に戻った。聞けばここはシャンクスさんの部屋らしく、中の広さに納得をしたものだ。


「あれからどうしてた?」


私は先ほどまで寝ていたベッドの縁に腰掛け、シャンクスさんもまた同じように椅子に腰掛け、ふと一息ついた所でシャンクスさんが切り出した。

ほんの少し低い位置に座る彼の強い瞳に魅せられながら、ぽつりぽつり、初対面の時のように、今度は空白の数年を伝えた。気づいたら元の世界にいた事。あれから5年近くが経っている事。特にそこにシャンクスさんは驚いたような、納得したような反応をしていた。


「なるほどなァ...」


重心を後ろにしたのだろう、椅子がぎしりと軋んだ。左腕で顎をかいてふむ、と黙り込む。


「10年以上だ」

「へ?」

「こっちは、あれから随分と経ってる」


片眉をあげ、おどけたように言う彼を見て間抜けな声を出してしまう。それでも彼の見た目を見れば納得してしまう部分の方が強い。


「おればっか老け込んだな」


それでもからからと笑う彼は記憶の中のままだ。色々疑問は尽きないだろう。それのほとんどに答えがないのもわかっているだろう。だから聞かないのだろう。ぐ、っと涙が出そうなのを堪えて私も笑った。


「しっかし、なんだってあんなとこにいたんだ?」

「それは...、」


わかっているはずなのに聞いてくるシャンクスさんに言葉に詰まる。私がシャンクスさんのビブルカードを持っているのは知っているが、たぶん、そういうことじゃ無い。街はかなり栄えているのだから、そこにいれば良かっただろうという意味だ。


「シャンクスさん、しか、思い浮かばなくて...」


頼れる人も、信頼できる人も。

段々と尻すぼみになっていく言葉も、彼にはしっかりと届いていたのだろう。一瞬だけきょとんとしていたが、そのあとすぐに嬉しそうに笑っていたのを見た。すぐに少し乱暴に撫で付ける手のひらに阻まれたが。


「そりゃ、ありがてェな」


2人の間に少し気恥ずかしい空気が漂った。
が、空気を読まない私のお腹が盛大になった事でそんな空気もすぐに散り散りに消え失せたのだった。






(あえてよかった。そう呟いたのはどちらだったか)

 

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