■ イレイザーヘッド
リカバリーガールから休息を言いつけられた。
理由は単純で、個性の使いすぎによる貧血が悪化したためだ。元々が貧血ではあるのだが、彼女が目をつぶっていられる範囲を超えたらしい。かといって貧血自体が数日で治るというものでも無いので、数日の休みと、2週間の個性使用禁止を言いつけられた。
「職務怠慢だ...」
がり、と自室の冷凍庫に入れてある氷を噛み砕きながら呟く。私は貧血が重くなると氷が食べたくなることが多く、ほぼ無意識に氷をかじっていることに、更に深いため息が漏れた。
とはいえ今日明日でどうにかなるものでもないそれにいつまでもぐずぐず考えていても仕方がない。食事なりサプリメントなりを使いつつ、まぁ、安静に過ごすしかないのだから。
この機会に積み重なっていた本を読むのも良いかもしれない。ベッドを背もたれがわりに使い、横に積み上げられた数冊の本の一番上にある小説を手に取る。これは1ヶ月ほど前にベストジーニストさんが読んでいたのを見て面白そうと買ったのは良いものの、そのまま積み上げられていたものだ。
「邪魔してるよ」
「あ、消太さん」
ぱらぱらとページをめくりながら眺めていると、思いの外集中していたのかすぐ横で消太さんが立っていた。
「婆さんが小言言ってたぞ」
「情けない限りです...」
リカバリーガールに続き、消太さんの言葉に眉が下がる。情けないことこの上ない。ぱたり、と本を閉じて元の積み上がった本の一番上に戻す。
「体調は?」
「悪くはないです」
隣に腰を下ろして聞いてくる彼にへらりと笑って返す。相変わらず仏頂面ではあるものの、若干不満そうな雰囲気を感じる。
「顔色悪いけどな」
「光の加減ですかね?」
おや、とワザとらしく言えば、消太さんが短く息を吐いた。それにすみません、と笑い混じりに続ける。
「...今日明日はあんまり動き回るなだとよ」
「わぁ、何しましょう」
リカバリーガールからの言伝だろう。消太さんの言葉に苦笑いが出る。それを見る消太さんが持っていたレンタルショップの袋を差し出した。
「観たかったって言ってたやつ」
「え、借りてきてくれたんですか」
「本の字見てるよか楽だろ」
渡された袋の中を見れば以前、借りられてて無いなぁ、なんて呟いていた映画のDVDと、新作で私の好きそうな作品が数枚入っていた。聞こえてたんだ、とDVDを見て頬が緩んだ。
「...今日はもう上がりですか?」
「そうだな」
「一緒に観たいんですけど良いですか?」
「そのつもりだよ」
伺えば消太さんが少しだけ口元を緩めた。伸ばされた手は優しく頭を撫でてくれて、これはとても甘やかしてくれてる、と緩みきった頬が元に戻らない。
「ありがとうございます」
「ん」
(映画は内容が思ったよりホラーでした)
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