■ イレイザーヘッド

*短い





相澤先生の部屋に行けば、暖まっていた室内にほ、と息を吐いた。


「遅かったな」

「珍しく私の方が後でしたね」


マフラーを外し、コートを脱ぎながらコーヒーを入れる相澤先生の後ろ姿を見る。もうお風呂も済ませていたのか、少し濡れた髪と、温まっているのであろう薄い部屋着姿に、心がそわつく。手袋をしていなかった、冷え切っている手を見つめた後に、そろそろと近づく。さほど広くはない室内ではすぐに距離は埋まった。


「んっ?」


相澤先生が短く声を発する。背後から抱きついたからか、少し弾んだその声には少しの意外、という気持ちが混ざってるような気がした。


「...どうかしたのか?」

「あったかそうだなぁと...」


もぞもぞと、私の腕では回りきらない体を動かして向かい合う。片手にはコーヒーを持ち上げたままだ。正面からでは少し恥ずかしい。でも温かさは増した気がしないでもない。

数秒の無言が続く。その間、相澤先生は気にせずコーヒーを飲んでいるのだろう音が頭上から聞こえてくる。


「確かに冷たいな」


こと、とカップの置かれる音が聞こえ、相澤先生の腕が回ってきて少し強めに抱きしめられた。私の体の冷たさが、相澤先生の温もりでやわらいだ。


「...今年一番の寒さだそうですよ」

「そういうことか」


片手は背中に、もう片手は頭を撫でている。その心地良さに目を細めた。












(寒いと寄ってくるなんて猫みたいだな)


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