■ ホークス

もくもく。薄っすらと湯気をあげる目の前のお鍋にはぐつぐつと野菜と鶏肉が煮込まれている。そんな美味しそうなお鍋に目をやりつつも、私はそわそわしていた。


「どうしたんです?」

「いや、ちょっと、高いお店は慣れてなくて...」


いたって普通に箸を進めるホークスくんとは対照的に、彼が落ち着かない様子の私を正面から見る。さすがナンバー入りしてる?だけはあって接待とかで使ってるんじゃないか...?別世界...。と今度はぼんやりしてしまう。


「まぁまぁ。個室なんでくつろいでくださいよ」

「それが余計に緊張しちゃうんだけどね...!」


ホークスくんが野菜やら何やらを小皿によそって渡してくれた。苦笑いをしつつそれを受け取る。年下とは思えない落ち着きっぷりに下がった眉が戻る気配がない。


「落ち着いてるよねぇ。ホークスくんて」

「そうですかね」

「その余裕というか、冷静さが欲しいよ」


ふー、と息を吹きかけて冷ました野菜を口に運ぶ。おお、鳥のお出汁すごく美味しい。すごい。なんだこれ。野菜なのに鳥とかすごい。野菜でこれだけ美味しいなら鳥肉食べるの後に取っとくべき?


「...まぁ、名前さんよりかは顔には出ない方でしょうね。美味いですか?」

「あ!うん!すごく美味しいね、って出てたね」

「モロ出てます」


恥ずかしい、子供か。ホークスくんも箸を置いて笑いながら頬杖ついてこっち見てるし。そんなまじまじ見なくて良いよ、本当。


「ん...?」

「どうかしました?」

「いや、最近忙しいのかな、って」


小皿を置き半歩分横にずれ、そこまで大きくないテーブルの向かいに座るホークスくんに手を伸ばす。特に反応も返さずに私の指先を見つめるホークスくんの口調からは疲れなど感じさせない。


「んー...光の加減だったのかな...。少し顔色良くないかなって思ったんだけど...」

「心配してもらうほどじゃないですよ」

「うーん...。そっか、」


にこりと笑みを浮かべるホークスくんに眉を寄せる。しかし手を引こうとすると同時に、彼に手を掴まれ目を瞬かせた。


「名前さん、人の様子には敏感ですよね」

「そう、だったら良いけど...?」


ホークスくんに言われ、そうあるように心がけてはいるものの、どれくらい出来てるかまではわからない、と苦笑いを漏らす。対する彼はじ、とこちらを見つめる。その顔に先ほどまでの笑顔は無い。

それを見て、私の手を掴むホークスくんの手を、逆に包むようにもう片方の手で覆う。


「どうかした...?」

「いいえ?なーんにも」


言いようのない不安に聞いてみるも、ホークスくんはくしゃりと笑みを浮かべるだけ。それに少し眉を寄せてしまうが、彼は何も言わない。


「...そんな力強く握られたら好きになっちゃいますよ」

「そういう軽口を...」


ホークスくんの目線が手元に下される。と、同時に言われた言葉に苦笑しながら手を離す。何を考えているのか、いまいち掴めない子だ。


「ま、名前さん相手だと気が抜けちゃうのかもしれんです」

「...リラックスしてくれてるなら良かったです?」

「そういうこと」


そう言って、彼はまた笑みを浮かべた。










(ぼんやりしてるだけだと思ったら意外と...)


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