■ 同期組

かち、かち、と職員寮の自室にてテレビを観ながら時間を刻む時計を見上げれば21時を過ぎた頃だった。ローテーブルに置かれたスマホには何の通知も入っていない。そこまで遅い時間とは言えないけれど、ミッドナイト先生からお土産で貰った焼き菓子を差し入れがてら外に出ようかとカーディガンを羽織る。

はぁ、と外に出れば少し肌寒い気温に息を吐く。看護教諭だとあまり関係ないけれど、テスト期間中である今は担当教科やクラスを持つ教員はめっぽう忙しい。寒さに手を胸元に持って行きながら、雄英の校舎を見上げれば、ぽつりと明かりが灯っている。相澤先生がいるのだろう。他の人は知らないけれど。

そろりそろりと廊下を歩く。薄暗い廊下はやっぱり少し怖い。そーっと職員室の扉を開ければ、予想通りの相澤先生と、予想外のマイク先生がいた。隣同士のデスクで、何やら話し声が聞こえてくる。


「苗字か」

「もうバレてる...!」


ちら、と横目で視線を受けると同時に相澤先生に名前を呼ばれた。それを聞いたマイク先生もこちらに顔を向けて笑顔を浮かべる。


「Hi!ショータのお迎えか?羨ましいぜ〜...」

「いえ、そういう訳ではないんですが...」


夜だからか、疲れからか、いつもよりも大人しいマイク先生が珍しい。紙袋片手に近寄れば、それを見つけたマイク先生が疑問を口にする。


「えっと、ミッドナイト先生からの頂き物なんですけど、差し入れにどうかなぁ、と」

「お!ナイスタイミングだぜ、名前ちゃーん!」


やる気無く背もたれにもたれ掛かっていたマイク先生ががばっと起き上がる。おお、よっぽど飽きていたんですね。相澤先生の視線が痛いけど。


「もう終わりそうですか?」

「俺はもうイイかな!」

「どういう事だマイク」

「Wow!ショータこっええな!!」


お菓子に差し入れにテンションが上がったらしいマイク先生。相澤先生がマイク先生を睨むも効果無し。さっさと片付けをする様子を見てため息を吐く。


「お邪魔してすみません、」

「もう終わったところだったから気にしなくていい」

「普段からその優しさ俺にも向けてくんない?」


伺うように聞けば、相澤先生が優しく答えてくれる。それを見たマイク先生が割って入るも相澤先生は普通にスルーした。厳しい。


「せっかくだし一緒に帰ろーぜー」

「一緒に帰るって学生みたいですね」

「またこれと学生なんて御免だな」


ぱたん、とパソコンを閉じた2人が立ち上がる。差し入れは職員寮で食べるようで、マイク先生が自然な動作で荷物を持ってくれる。ウインク付きで。


「って、ショータ目ぇ怖!」

「元々だ」

「名前ちゃんにちょっかい出すなってか?」


はぁー、怖い怖い。と肩をすくめて笑っているマイク先生。それを見る相澤先生の目がとても怖い。その辺にしないと、めっちゃ苛立ってますよ、と前を歩くマイク先生に無駄だろうが心の中で訴える。


「そんな独占欲強いと、ぶふっ!!」

「お前もう喋んな」


尚も気づかないのか、あえてなのか口を開くマイク先生を、捕縛布で強制的に黙らせる相澤先生。思わず2人の間を歩いていた私はマイクせんせー!?と彼に向かって叫んでしまった。


「あ、あぁ、相澤先生!」

「Hahaha!大丈夫、ショータ流の照れ隠しだから!」


狼狽える私と反対に、マイク先生は空いた手で捕縛布を口元から下げて笑う。結構本気度の高い照れ隠しですね!


「鬱陶しいのは本当だ」

「とかなんとか言っちゃってよ〜」


しゅる、と捕縛布を戻す相澤先生がげんなりとした顔で呟く。それを真っ向から否定するマイク先生。めちゃめちゃポジティブですね。いや、何だかんだで付き合いも長いから本当にそうなのかも?


「ていうか名前ちゃん」

「はい」

「俺も名前で呼んでくんない?」


マイク先生の高い鼻先が触れそうなほどの距離で顔を覗き込んで言う。サングラスの奥の瞳が、夜の闇に紛れて不思議な色合いを醸し出していた。


「はぁ...。山田先生、ですか?」

「そっちかー!ま、良いけどな。怒られそうだし」


にこにこと笑顔で髪をくしゃりと撫でられる。なんだ。相澤先生がずっと相澤先生って呼んでるから?それとも今はプライベートだから?とかなのか。疑問符をいっぱいにして首を傾げた私を見下ろすマイク先生改め山田先生が相澤先生に声をかける。


「何、名前ちゃんてずっとあんななの?」

「まぁ、いつも通りだな。ていうか近ぇんだよお前は」

「あだだだ!ショータ、ギブ!!」

「2人とも、夜ですよ」


相澤先生にしばかれてる山田先生が私の事を言っているのはわかる。それもあまり良くない方向で。私の男性に対する緊張感の無さとかの話なんだろうけど、山田先生に警戒心を持つとかないだろう、同僚かつ先輩なのに。


「山田先生に身構える訳ないじゃないですか」

「眼中に無いってストレートに言われちまったぜ!」

「そりゃそうだろうよ」

「おおい!ショータまでかよ!」















(でももう少し身構えろ。近すぎ)
(心配ですか?消太さん)
(そうだよ)
(ぅえっ!?)


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