■ イレイザーヘッド

部屋の中、着の身着のままといった格好でソファで膝を抱えて重い溜め息を吐いている名前を見つつ、後ろ手でドアを閉じた。


「とりあえず応急処置だけしといた」

「ありがとうございます。すみません、取り乱して...」

「いや、別に良い」


事の発端は部屋の窓ガラスが割れたと泣きついてきた所から始まる。台風が近づいていたこともあり、強風に飛ばされた枝が窓を突き破ったらしい。シャワー中に聞こえた音に驚いて、部屋の中を見てさらに驚き、手に取った服を引っ掛けて部屋にやってきたらしい。その姿を見た時にはさすがに何が起きたかと驚いたが、蓋を開けてみれば何ともない内容に安心から息を吐いた。


「明日言っとくよ」

「何から何まですみません...」


申し訳なさそうに項垂れる名前の髪からぽたりと滴が落ちる。よくよく見れば薄い色の部屋着を纏った名前の服の肩周りの服が濡れていた。よっぽど慌ててたのだろうその様子が容易に思い浮かんで口元が緩む。


「タオル取ってくる」

「え?あ、はい、」


言い残すと後ろから疑問混じりの声がかかった。気にせずタオルを1枚引っ掴み、それと一緒に部屋着を1枚手に取る。名前の着ている服と対照的で、我ながら代わり映えのない色にほんの少しだけ眉が寄った。


「こっちに着替えろ。そのまんまじゃ風邪引く」

「え、ええ!良い、んですか...!」


ばさっと渡せば、服とこちらを交互に見られたが、おずおずとタオルで髪の水分を取り始めた。それを見届けてコーヒーを2人分入れようと思い至り、飲み物取ってくる、と一言残して行けば、やはり後ろから声がかかった。

1人薄暗い寮内を歩きながら、さきほど応急処置をした名前の部屋を思い返す。あの様子じゃ今日は自室で寝ることはできないだろうな、と他人事のように思った。


「着替えたか?」

「あ、はい...。大きいですが、」


ちょこん、とソファに小さく座っている名前を見る。思っていた以上に体格差があったらしく、本来は肩の部分は二の腕の真ん中よりも下に位置し、そのおかげで袖は2、3回折られているようだった。裾もだいぶ長い。名前がそれを見ながらはにかむように笑った。


「あと...」

「どうかしたか?」


コーヒーを置き、横に座りながら聞く。座ったまま、覗き込むように聞けば視線を泳がせ黙る。疑問に思いつつも特に促さず、その落ち着きのない様子を眺める。ふと目が合えば、少し顔を赤らめてまた目を逸らすのを見ていて飽きないな、とぼんやり見ていれば、袖で口元を隠した名前が伏し目がちで口を開いたらしい。小さく声が聞こえた。


「相澤先生の、匂いが、ほっとするなぁと思いまして...」


その言葉を聞いて身体がピシッと固まった気がする。当の名前は言ったことが恥ずかしいのか手で顔を覆い、言っちゃったーとぼそぼそ言っていた。











(はぁ...)
(え!なんでため息!)
(自分で考えてみろ)


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