■ 緑谷出久
「失礼します」
そう言って扉を開けた緑谷くんは私を視界に入れると、確認するかのように扉の上の仮眠室か書かれた札を見上げた。どうやら私以外の人に用があったらしい。まぁ、相手は1人しか思いつかないけれど。
「あの、オールマイトは...」
「今校長に呼ばれて席を外してるの。すぐ戻ってくるって言ってたからもう来ると思うよ」
座って待ってる?と促せば素直に座ってくれる彼に顔がほころぶ。私はそれを横目で見てすぐファイルに視線を戻した。
「...あの、苗字先生ってオールマイトと知り合いなんですか?」
緑谷くんの視線を感じつつ手を動かしていれば、すぐに声をかけられた。振り返って見れば、気になって仕方なかったのだろうか、真っ直ぐにこちらを見ている。
「そうだよ」
目当ての数冊のファイルを手に、向かい合うようにテーブルを挟んで座る。緑谷くんが、探るような視線を向けながらもぶつぶつと呟いている。
「あっ、あの、オールマイトの個性が、その...」
「うん。たぶん、同じくらいは知ってるね」
「そうなんですね...!」
私の言葉に、探るように言葉を選んでいた様子が消え失せた。そしてそれが興味に変わっていく様も手に取るようにわかり、かわいい様子に頬が緩む。
「ずっと前に、彼の体調を心配して私が当てられたの。一時期はもう半同棲のような感じだったよ」
「えぇえぇぇ!あのオールマイトと!?」
「ほら、事件ある所にオールマイトあり!って感じでしょう?家で待ち構えてないと捕まらなくて...」
「なるほど」
たしかに!と今までのオールマイトの事件解決っぷりを追っかけていたであろうオールマイトオタクの緑谷くんが強く頷いた。それに対して私は、半同棲のように彼の家にいたけれど、空振りも多かったからなぁ、とあの時の苦労を思い返して薄ら笑いになっていた。
「ずいぶんと楽しそうだね」
「オールマイト!」
「私が気を揉んでいた時の話です」
「耳が痛い」
ガラリと扉が開け放たれ、オールマイトが入ってくるなり私たちを見て笑っていた。私の言葉に苦笑しつつ、隣に腰かける。
「カプセル用意しておきますから後で来てくださいね」
「わかったよ」
「調子が良いからとか、事件があったからとか色々言ってバックれないでくださいよ」
「そんなに心配しなくても、」
「素直に一度で来てくれたことがあれば言いません」
「いや、あれはだね...」
「良いですか?」
「はい」
すらすらと流れるようなやりとりに、オールマイトがなで肩をさらに落とす。やりとりを見ていた緑谷くんは、対相澤先生以外ではなかなか見ないであろう押されがちな様子におぉ、と私たちを交互に見ていた。
「では後ほど。緑谷くん、またね」
「あ!はい!また」
ひらひらと手を振り、ファイルを抱えて出て行く私を見送ってくれた視線に笑みを返して私は仮眠室を後にした。
(苗字先生、すごいんですね)
(うん、彼女には敵わないね)
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