■ オールマイト

時々、トシさんは本当に無茶をして帰ってくることがある。ヒーローだから仕方のないことではあるけれど、みんなを守るためだけれど、それに無性に腹がたつ時がある。

自分の周りにも目を向けて欲しいと願ってしまうのは、恋人としてはごく自然な願いだと思う。けれど、やっぱりそれを口に出すのははばかられる。そんな葛藤が隠しきれない時は少し機嫌が悪くなるのは自分でもわかっている。それが困らせていることも。


「いつもすまないね」

「しかたないですよ」


傷を作って帰ってきたトシさんの手当てをしながら、つっけんどんな言い方をしてしまう。 トシさんが困ったように笑った。


「どうしたら機嫌を直してくれる?」

「ん、今手当てしてますよ」


大きな手のひらが優しく頬を撫でる。その手を取り、彼の膝の上に戻せばおや、と眉を下げた。今日はなんだかいつもより虫の居所が悪いのかもしれない。申し訳ないけれど八つ当たりに近い。

個性を使えばある程度の傷ならすぐ治る。それでもやっぱり、大切な人が怪我を負うのは出来る限り見たくないものだ。


「無茶は、しないでください...」


ぼそりと呟いた言葉はしっかりとトシさんにも届いていたようで、くしゃりと頭を撫でられる。そして自分の座るソファの隣に座るように促す。


「私の身を案じてくれてありがとう」

「...私が、子供すぎるだけです」

「そんなことはないさ」


隣に座ると、腰に腕が回されて引き寄せられる。宥めるような声音に、髪を撫でる優しい手つきに思わず目を細めてしまう。


「どうにも、私は名前くんに甘える癖が出来てしまったみたいでね」

「..........」

「君なら大丈夫だ、と思ってしまうんだよ」


そのまま頭を傾けてトシさんに寄りかかれば、彼は小さく笑って髪をすいてくる。彼の鼓動とそれが、たまらなく心地いい。


「その言い方はずるいです」

「そうかい?」


ちゅ、と前髪を寄せて額にキスをしてくる彼に目を細める。そんな言い方されると、私は何も言えない。甘やかしてるのはトシさんの方だ。


「私の方がよっぽど甘やかされてます」

「良いんだよ。私がそうしたいんだ」

「ん、」


頬に手が添えられ、触れるだけのキスに心の中のモヤモヤが無くなっていく。ほら、こうして貴方を責める私を甘やかす。


「ちょ...!」


そしてそのまま、首筋に唇を寄せるトシさんの胸に手を伸ばすが、びくともしない。逆に腰に回された腕が強まった気がする。


「安心するんだよ」

「え...?」

「帰ってきて、名前くんの顔を見ると。無性にね」


そのまま、顔を見せないように呟く彼の言葉に突っ張っていた腕が緩む。するとその分を埋めるように更に身体ごと引き寄せられた。


「だから私はヒーローであり続けなければ」


誰かのために。
それはヒーローの根本だ。その中に、自分がいたことが嬉しくてたまらない。やっぱりトシさんは、私を甘やかしてばかりだ。むず痒さも感じてしまうほどの気持ちに泣き笑いのような表情になってしまう。


「トシさん、」


少し力の弱まった腕の中で、彼の肩を押せばすんなりと距離が開く。青の瞳は相変わらずきれいな色だ。私の好きな色。


「好きです」

「は、」


ちゅ、と鼻先にキスをすれば、きょとんとした顔のトシさんに笑ってしまった。唐突に面と向かって言った恥ずかしさもあり、そのまま逃げるように彼の腕から抜け出すとキッチンへと足を向けようとして、くるりと彼の方に向き直る。


「トシさんの全部が大好きですよ」


そして今度こそキッチンへと足早に向かう私には、彼が少しだけ赤くなった顔を手で隠し、ソファにもたれていたのは見えなかった。

















(これだからかなわない)


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