■ ミッドナイト
*朝チュン後の話。品がない。
「やっぱりねぇ」
はい、見つかりました。目ざとく見逃さないミッドナイト先生に、相澤先生に付けられたあれをしっかりちゃんと見つかりました。
普段と違い、髪をおろして1日を過ごした。それを彼女が見逃すはずもなく、暗くなった外に目をやりつつ、寮に戻ろうと学校を出た瞬間にミッドナイト先生が背後に立った。プロヒーローの無駄遣いだ。
「あら、ここにもあるじゃない」
「嘘!」
耳の裏をミッドナイト先生がつい、と指でなぞる。何その場所。そんな場所に付けられるんですか、キスマーク。見えなさすぎて何もカモフラージュしてなかったんですけど。
「想像通り、独占欲の塊みたいな男なのねぇ。相澤くん」
さっさと寮の自室に帰ろう。足を向けるも力強く腕を引かれ動けない。これもプロヒーローの無駄遣いだ。面白そうににこにこするミッドナイト先生に引きずられるように寮には戻れたものの、談話スペースに座らされた。そして目の前でミッドナイト先生は缶ビールを煽っている。良いんですか、一応寮とはいえ学校の敷地内なんですけど。
「で、どうだったの?」
「直球過ぎる...!」
「相澤くん、あんまり女性関係の噂は聞かないけど...。下手ではなさそうよね」
むしろその逆。
ぷしゅ、と小気味良い音とともに開けられた缶ビールは1本目は一気に飲み干したので、もう2本目も終わりそうだった。
「ねぇ、どうだったのよぉ」
「からみ酒がひどいですよ...!」
「飢えてるの、私」
かん!と音からしてもうほぼ空の缶をテーブルに力強く置くと、そっとソファから立ち上がって横に座るミッドナイト先生。しなっと寄りかからないでください。
「だから、聞かせて?幸せな話を」
「ひぃぃ!」
耳元で、ふぅ、と吐息交じりに言われて鳥肌がたつ。悪酔いがすごい。何か嫌なことでもあったのだろうかと思ってしまう。
「上手かった?」
「そっそれは、」
つい昨日の夜を思い出し俯く。ああ、恥ずかしい。こっちは素面なんですけど。って足絡めないで!
「その辺で止めといてくださいよ」
「あら、相澤くん」
ぐいぐいと迫られるミッドナイト先生に助けてー、と思っていた矢先、制止の声をかけたのは今戻ったであろう相澤先生だった。彼の言葉を聞いてか、ミッドナイト先生が離れたことにほっとする。
「これ見よがしにキスマークなんて付けちゃう男が言う?」
「それはそれでしょう」
ぶぅ、と不貞腐れるようなミッドナイト先生の言葉を軽くあしらいつつ、相澤先生がテーブルに採点書類を置くと、すたすたと奥の食堂の方へと行き、冷蔵庫から水を持ってくる。
「独占欲の強い男は嫌煙されるわよ」
「ご心配なく」
「もう!相澤くんつまらないわね!」
「標的にされんで助かりますね」
向かいのソファに座り、パラパラと書類を流し見ながら水を飲む相澤先生。ミッドナイト先生の言葉をどれもきれいに流しているのが見ていて面白い。
「名前ちゃんが押しに弱いからってがっついちゃって」
「えぇ!ここで私に戻ってくるんですか!」
ぎゅう、と酔っ払っているミッドナイト先生私の首に腕を回して抱き寄せる。ぴく、と相澤先生の手元が揺れた気がしたが、なんでか先ほどと違い庇護される立場になった私は心が軽い。掘り下げされるよりよっぽどマシだ。
「なんだか心配になってきちゃった」
「え、なんですか、ミッドナイト先生」
すりすりと頬を寄せてくるミッドナイト先生。お酒の匂いがほのかに香る。そしてその豊満な身体もすり寄せられて女同士なのに恥ずかしさが勝ってしまう。
「名前ちゃんの幸せそうな顔は良いけど、相澤くんもなんて悔しいわ」
「...名前から離れてもらって良いですか」
「ほーらー!こういう所よ!」
「ぶふ、くるし...!」
何ですかこれ。胸の圧迫感がすごいんですけど。ゆらり、と立ち上がった相澤先生が寄ってくると、容易くミッドナイト先生の腕の中から私を引っ張り出す。
「なーんて。本当、独占欲の塊なのねぇ、相澤くん」
「わかって言ってるでしょう」
「ふふふ。どうかしら」
はぁ、とため息をつく相澤先生に、にんまり笑顔のミッドナイト先生。私は引っ張られた反動で、相澤先生にもたれかかるようにして立つ。
「あーあ、聞きたかったのになぁ。相澤くんとのあれこれを」
言いながらミッドナイト先生が缶ビールの残りを飲み干す。相澤先生は私の手を取ったまま、テーブルにある書類とペットボトルを持つと、自室に戻るのか体の向きを変える。
「まぁ、気失うくらいには良くしてますよ」
「は!?ちょっと、相澤先生!!」
何を言い出すのかと驚きに声が出てしまった。それを気にとめることもなくそのまま歩き出す相澤先生に腕を引かれる。背後からはミッドナイト先生が今度詳しく〜なんて手を振っていた。いや、詳しくとか言わないから。
(もう!何言ってるんですか!)
(嘘じゃないだろ?)
(そういうことでなく!)
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