■ 121話

あの後、2人に処分を言い渡した所で解散となった。オールマイトは見張りも兼ねて2人を部屋まで送りながら自室に戻るようで、今部屋に残っているのは相澤先生と私の2人のみ。

相澤先生はただでさえ疲れた様子がさらに増して、テーブルの横で椅子に座り、片腕をテーブルに乗せてうな垂れるように片手で顔を覆って俯いている。あらまぁ、これはまたずいぶんと疲弊しているようだ。


「相澤先生...?」


その隣に座り、片付けとついでに補充しておくものをリストアップしながら様子を伺う。返事はない。


「あの、」

「大丈夫だ」


相澤先生の背中に手を伸ばすと、それよりも早く、逆に手を取られて握られる。珍しく下から見上げられ、強く、それでも痛くないように握るその手にどきりとした。


「お疲れなら、もう寝られますか...?」

「いや、まだ残ってる書類がある」

「あらぁ...」


相澤先生の言葉に思わず苦笑いをしてしまった。ただでさえ仕事中だったのだ。それを2人の騒動で少しでも後々になってしまっているのだからため息の一つもつきたくなるのは仕方のないことだ。なんて思案にふけっていると、握られた手が引っ張られ、相澤先生の方に引き寄せられたかと思えば抱きしめられた。


「え...!」

「充電」

「そんな上鳴くんみたいな...」


相澤先生の言い方が可愛くて腕を背に回して撫でる。しかし私の言った言葉が気に食わなかったのか、背中の手が気に入らなかったのか、力が強められて思わずうっと唸ってしまった。


「...疲れてんな、俺も」


はぁ、と私の肩に頭を乗せてため息をつく相澤先生。疲れてるのは私でもわかるけれど。


「生徒に嫉妬だなんてみっともない」

「は?」

「良い。忘れろ」


嫉妬?ってことはヤキモチ?何に?と背を撫でながら思い返すと、さしあたり浮かぶのは上鳴くんみたいって言ったことくらいしか思い浮かばない。緑谷くんや爆豪くんとかでもないだろうし...。

それでも珍しい相澤先生の言葉にだらしなく笑みが浮かぶ。


「ふふ」

「笑うな」

「すみません」


よほどお疲れの様子の相澤先生が可愛らしくて、それを見せないように顔を肩に置くのも可愛い。もう全部可愛い。止まない笑いを、揺れる肩から感じ取った相澤先生が一瞬だけ顔を上げた。


「ひぃ!!」


かと思えば服の首元を引いて出た肩に軽くだが噛み付かれ、くすぐったさと驚きとで変な悲鳴が出た。その反応に満足したのか、相澤先生はぺろりとひと舐めすると顔を上げる。


「部屋、戻るぞ」

「うぅ...。噛まれた」


気が済んだらしい相澤先生が、私の手を取り立ち上がる。私も腕を引かれるまま立ち上がり、首筋と肩の間あたり、噛まれたところをさする。軽くだったけど、跡残りそうな勢いだったな...。


「自分は治せないのに...」

「残しとけ。どうせすぐ消える」

「...独占欲の塊ですね、消太さん」

「なんだって?」


じと、と相澤先生に見られ、別に?と目線を逸らす。お疲れの時はあまり余計なことをしないに限るようである。













(あー、でも甘えてくる相澤先生も可愛かったなぁ)


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