■ ミッドナイト・マイク

「あら、おはよう、名前ちゃん。映画デートはどうだったかしら?」

「親と観てたドラマに急に濡れ場が出てきてきまずい気持ちになる思春期女子の気分でした」


職員室から保健室へ戻る道すがら、後ろから声をかけられて振り返るとそこにはミッドナイト先生。挨拶もそこそこに先日のことを聞いてくるあたり狙ってたのでは?と思い彼女の期待通りになるのもなんだか癪で、変化球で返した。その返答にミッドナイト先生がけらけらと笑った。笑いごとじゃないですよ。本気ですよ。


「でも良い映画だったでしょ?」

「ラブシーンのインパクトが強すぎてストーリーとか抜け落ちましたよ」

「あら、映画なのに?想像以上にうぶなのね」

「そこを掘り返さないでください...」


にまにまという形容詞がぴったりの笑みを浮かべつつ隣を歩くミッドナイト先生。職員室に戻ってくださいよ。


「そんなんじゃ相澤くんも手ぇ出しにくいわねぇ」

「ちょ!ミッドナイト先生!?」


なぜここでその名を出す。驚いて声が上ずってしまったじゃないか。そんな私の反応を見てミッドナイト先生は一瞬驚いたように目を見開いたが次の瞬間には、はーん、と目を細めて人差し指を口元にあてている。似合うけれどその反応は良くない。あれ、私顔赤くなってないよね?と思わず両手を頬に添えてしまった。


「もしかして本当に何もしてないの?」

「なに昼間っから言ってるんですか...!」


確かに18禁ヒーローなのでその言葉とか反応は間違っていないかもしれないが私を対象にするのは間違っていると声を大にして言いたい。と、ここで保健室に着いたので逃げるように扉を開けて中に身体を滑り込ませる。さすがに中まで入ってくる気はないようで、良い笑みのミッドナイト先生にじゃあね〜と手を振られた。がらら、と引き戸を閉めると恥ずかし疲れたで小さくため息が出てしまった。











「なぁなぁ、どうだったんだよイレイザー」

「うるせぇ」


なんだこのうるせぇ奴。さっきからずっとこの話題を振ってくるマイクに隠すことなく苛立ちをぶつけている。特に気にしてないようだが。


「いいじゃねぇか。俺たちの間に隠しごとはなしにしようぜ?」


そうだろ?と人のデスクに肘を置き馬鹿の一つ覚えのように聞いてくるマイクの顔を手近にあった出席簿の面で無言で叩きつける。


「ouch!本気で叩くのかよ!」

「人のこと根掘り葉掘り聞く前に自分の仕事しろ」

「ってぇことは?終わったら良いんだな!」

「...本当、良い性格してるよ」


やるぜー!と意気込んで素直に自分の席(隣だが)に戻るマイクを横目で見てため息が出る。つうかやってんの学校の仕事じゃねぇだろ、いい加減にしろよお前。


「ま、珍しく2人並んで仕事してるのね」


面倒くさいのが増えた。眉間の皺が増えたのは気のせいではないはずだ。ついでにため息も出た。


「相澤くん」

「..........なんですか」


ふふふ、と笑いながら近寄ってくるミッドナイトさん。無視するわけにもいかず返事は返すものの、正直今は関わりたくない。なぜなら話題はマイクと同じだからだ。


「焦らずゆっくり、よ」


何のこと、なんて聞かずともわかる。筒抜けであろうことも。耳元でぼそりと呟かれたそれに疲れる、と机に両肘を立てて目元を両手に当てるように俯く。もちろんそこそこ大きなため息も出てしまった。


「...あんまりアイツをからかわないでやってください」

「やぁねぇ。可愛がってるのよ」


彼女の中々見ることのない楽しそうな笑顔に、これはまだしばらく続くな、と改めて疲れを感じつつ、自分以上に絡まれているであろう苗字を不憫に思った。













(出歯亀コンビに絡まれる2人)


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