■ 緑谷出久


リカバリーガールは多忙である。

日々、生傷の絶えない雄英生達のためリカバリーガールはその個性を使用する。そしてその希少でいて重宝されるその個性は校内だけでなく日本各地を飛び回り人々のために使われている。

そこで私の登場である。
彼女同様、治癒系の個性である私が主に彼女の不在時に看護教諭として臨時に勤めている。代理でここにいるのもまぁ、慣れたものだが、今年の一年生はそこそこ怪我が多いようだ。彼女の残している生徒情報を眺めているとがららら、と扉が開く。


「あら、こんにちは。はじめまして、緑谷くん」

「え!あれ!?あの、リカバリーガールは...」

「出張中なの。代わりに私でも良い?」

「え!それはもちろん!」


きょろきょろと室内を見回すもじゃもじゃ頭にふふっと思わず笑ってしまった。おどおどと落ち着かない様子で周りを見つつ、こちらに寄ってくる様子はなんだか小動物のようである。


「はじめまして、苗字名前です」

「はっはい!はじめまして!緑谷出久です!よろしくお願いします!」

「はい、よろしくね。怪我はー...手?」


目の前に腰掛ける彼を上から下まで見渡し、怪我が多いと書かれていた手をとる。ガチガチに固まる彼の様子に苦笑が漏れた。両手をとり手のひら、手の甲と見て、状態が悪いのが指だけである事を確認する。


「あ、あの、苗字先生の個性って...」

「あぁ、知らないと心配だよねー、治療されるのに」

「いえ!単純に興味があるというか...」


私の個性はこれ。
と棚から取り出したケースに入る軟膏を見せる。緑谷くんはと言うと、不思議そうに、でも食い入るようにケースを片手に取り色々な角度から眺めている。


「これって、」

「私の血」

「ち!?」

「そ。私の血を塗ったり飲んだりすると傷が癒える、って個性なんだけど...。そのままだと治るとはいえ気持ち悪いでしょ?だからサポートアイテムで成分そのまま軟膏というか、クリーム状にしてるの。私が使う分には使えるみたいだから」

「へー...すごい個性ですね...」


言いながら緑谷くんの手からケースを受け取り、怪我のある指を付け根から先まで塗り込んでいく。数秒ののち、痛々しく変色していた指先の色が綺麗な肌色に戻っていく。


「すごい...!」

「あ、でも治ったように見えるからってまたすぐ酷使しないよう気をつけてね。塗ってるから外見はすぐ治るけど、骨折までしてたら少し時間かかるの」

「そうなんですか?」

「ん。大体2日から3日無理せずにしてれば平気だと思うけど、もし何か変だと思ったらまた来て」


手を軽くぐっぱと握ったり開いたりしている様子を見る限りでは特に問題なさそうではあるけれど。感心したように自分の手を眺める緑谷くん。


「痛みは?」

「あ、ほとんどないです。すごいなぁ」

「ほんとに?嬉しい。ありがとう」

「え!いや!そんな!」


彼の言葉には嘘が見えない。ただ単純に感心したというような言い方に嬉しくなり、思わず頬が緩む。緑谷くんは緊張から?か少し顔を赤くしながらぶつぶつと何かを言っている。それを横目に、緑谷くんの生徒情報に今日の内容を簡単にまとめて記入する。


「はい。じゃあ終わりです」

「あっありがとうございます」

「とんでもない。何かあったらすぐ来てね。あと、あまり無茶はしないことね」

「すみません...」
「...ま、ここの子達は言っても聞かないけど」


諭すような言葉に、彼は申し訳なさそうに顔を俯かせる。それを見て短く息を吐く。そのまま両手で頬を挟んで上を向かせる。


「努力はとても大切だけれど、急ぎ過ぎないでね」

「う、はい...」


元々自信なさげに下がっている眉がさらに下がっている。大きな瞳が揺らいでいた。その下がっている眉を、両手の親指で無理やり上に持ち上げる。


「なーんて。みんなに言われてるよね」

「...え?」

「それだけみんな心配してるし期待してるの。無茶だけはしないでね、有精卵!」


手を離し、怪我をしていない方の腕を軽く叩いた。それに彼はぐっと口を結ぶと少し照れたように頷いたのだった。








(未来のヒーローたちを支える力になりたくて)


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