■ ファットガム

珍しく関西圏に出張になったので、以前お世話になったヒーロー事務所に顔を出すことにした。

とは言ってもそこで働いたりしていたわけではなく、今回のように出張で来た際に細々した事件に巻き込まれたところを助けられたと言う同じヒーロー(というのはおこがましいかもしれないけれど)として情けない姿を晒していたのでその時の礼も兼ねてである。


「えーと、ここを、こっち?だっけ?」


手には駅前で買った大きな袋の中には相手が好物のたこ焼きが大量に入っている。他に好きなものを知らないし、妥当なものを買っていった方が良いかとそれを選んだ。

きょろきょろと商店街を歩きながら目当ての事務所を探していると、曲がり角から出てきた人に思いきりぶつかった。きゃ、と小さく声が出たが、相手がよろける私を支えてくれたようで倒れずにすんだ。


「すまんな、ネェちゃん。って名前ちゃんやないか!」


ぶつかった相手は私が会いにきた相手、ファットガム事務所のファットさん。どうりで弾かれたはずだ。ついでに手から離れたたこ焼きの入った袋もしっかり反対の手でキャッチしてくれていたようでほっと安心する。


「なんや、どないしたん?俺に会いに来てくれたんか?」

「あ、そうなんです」

「ホンマにそうなんかい!」


からかうような言い方だったが、事実だったので認めるとげらげらと笑いながら逆に突っ込むような返事をいただいた。いえ、まぁ、そうなので否定はできないです。


「って、なんか以前より少し痩せました?」

「そやねん。最近忙しくってなぁ」


やれやれと肩をすくめる様子がわかる。というか前に会った時は中々の丸いフォルムだったのに今はなんというか、ぽよぽよで大きい事には変わりないのだけど、少しは部位がわかると言うか。なんだろう、言い表すのが難しい。


「それはお疲れさまですね...。あ、それ、差し入れに持ってきたんです」


それ、と指差せばファットさんの目がキラリと光る。そしてお店のロゴを見つけると声を上げてくれた。喜んでいただけたなら良かった、と胸をなでおろす。


「ほんなら事務所行こうや。時間あんねやろ?」

「あ、はい。今日はもう仕事も終えたので...」


ぐいぐい手を握って歩いて行くファットさんの後ろを素直についていく。なんだろう、全体的にもちぷよなファットさんの身体は心が和むというか、癒し系だ。掴まれた手も柔くてほんわかしてしまう。


「にしたって久しぶりやなぁ」

「助けていただいたのにご無沙汰してしまってすみません...」

「かまへんかまへん!ちゅうか、こっちだって世話なっとったんやからお互い様や!」


話しながら歩くこと数分、だいぶ近くまで来ていたようで事務所にはすぐ着いた。パトロールもちょうど終わりだったらしく、仕事の邪魔をしてなかったことにも安心する。

通された事務所のソファに促されるまま座ると、ファットさんが茶でええかー?なんて奥から声をかけてくれた。


「すまんな、みーんな出払っとるからええもん出せんくて」

「いえ、こちらこそ急に押しかけてすみません」


目の前に置かれたグラスに冷たいお茶が入れられていて、一口飲むとほっと安心する。向かいには私が買ってきたたこ焼きを頬張るファットさん。喜んでいただけて何よりです。


「名前ちゃんも食うやろ?」

「いえ、ファットさんに買ってきたものですので...」

「かまへんって。ほら、あーん」

「う゛、それは...」


さすがにあーんは恥ずかしい。でもファットさんは気にしてないようでほらほらと催促してくる。じゃあ、ひとつだけ...。とおずおずと口を開ける。


「ん、けっこう、あつい...!」

「はっはっは!茶ぁ飲み!」


口元に手を当ててはーと息を吐く。思ったより熱くて驚いた。しかしその味は本当に美味しくて、評判通りで良かったとも思った。


「やっぱ事務所に女の子おると和むなぁ」

「女の子、って年でもないですよ?」

「なんちゅうことを言うとんねん。じゅーぶん、可愛い女の子や」


ファットさんの力説にはぁ、と思いのこもらない返事をしてしまった。なんというか、雄英教師陣にはいないタイプで接し方がわからないというか、こんなしっかり?女の子扱いされたことあったっけ?というレベルなので仕方ない。


「でも、そう言ってくれると嬉しいですね」

「それやそれ!そのはにかんだ感じの笑顔、可愛がりたくなってまうやろ!」

「ぶふっ!」


たこ焼きを食べ尽くしたファットさんが両手を伸ばしてきて両頬をむにむにとしてくる。女の子扱いっていうか子供扱いですよね、それは。


「あー、えぇなぁ、女の子。ウチの事務所にも来てくれへんかなぁ」

「募集出せばわんさか来ると思うのですが...」

「そういうこっちゃないねん!」

「むずかしい」


ほっぺたをむにむにしたり頭をなでなでされたりともはや女の子というより動物のような扱いを受けつつも返事をしてみるも違うと言われるとなにが違うのかわからず閉口してしまう。


「あーあ、名前ちゃんウチ来てくれへん?」

「私戦えませんけど」

「サポートも欠かせへん役割やんか。名前ちゃんおってくれたらファットさん休まず頑張ってまうわ」

「そこはちゃんと休んでください」

「そうそう、そういうツッコミも重要やねん」


手が離れたかと思えばすすす、と隣に座って体を引き寄せて来るとこそこそと内緒話でもするかのように手元を隠すように親指と人差し指で輪っかを作りこっちも十分弾みまっせ、と人の悪い笑みを浮かべる。なんの引き抜きですか。


「まぁ、機会があればということで...」

「かー!つれへんなーもー!」


ファットさん側に傾けられてた身体を起こしながら言えばファットさんも笑っていた。冗談もほどほどにしましょうね。






















(あながち冗談でもあらへんのやけどなぁ)


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