■ イレイザーヘッド


さて、私は今相澤先生と木椰区ショッピングモールにいる。なぜかと言えば、エリちゃんの服を買い足すためである。もうすでにあるにはあるのだけれど、それでは心許ないので、と買い出しに来ることになった。それなら相澤先生ひとりでもいいと思うかもしれない。

でもそれはできなかった。

彼が買ってきたという服が入った紙袋。中を見て噴き出さなかった私に大きな拍手をあげたい。それくらい突出したセンスだったのだ。


「さて、どんなのがいいですかね」

「猫」

「ぶふっ」


無理だった。予想外の返しに噴き出してしまった。もう私の相澤先生の洋服に関するセンスのキャパはいっぱいいっぱいだったのかもしれない。噴き出したことをごまかすように咳の真似をする。ちらりと横を見ると特に気にしてなさそうだった。

緩く結い上げられた髪に五分丈くらいの緩めのUネックシャツ。デニムパンツに合わせるのはステッチの明るい色の糸がポイントになっているローカットブーツ。エリちゃんの服、本当はふざけて選んだんじゃ...と疑いたくなってしまうようなシンプルイズベストな同色コーディネートを着こなす相澤先生。普通に格好良い私服に思わず見つめてしまうと、私の視線に気付いた相澤先生がデニムのポケットに指先を入れたままこちらを見た。

そこで気づく。

この人が一般的に見ればかなり格好良い部類に入ることを。だからシンプルでも格好良いのか、ずるい。と、同時に合わさった視線に背筋が伸びる

あ、やばいかも。
普段は髪に見え隠れしている鋭い瞳が、髪が結い上げられてるせいでよく見える。直視できず、不自然なほどに首を傾けて相澤先生の視線から逃げた。


「あの...あっち行ってみます?」

「まかせる」

「了解です」


普段なら相澤先生あとをついてく形で歩くことがほとんどだが、今の私は少し恥ずかしがっていた。だからいつもより少し早歩きで隣に並ばないように、と歩き始めたのだ。いや、私の早歩き程度じゃ元々歩幅の広い相澤先生だとすぐに並んでしまうんですけどね。改めて考えれば私一人でも良かったのを、エリちゃんのだからと休みの相澤先生を誘ったのだ。しかしもう来てしまっている以上は仕方がない。さっさと買い物を終わらせる以外には帰れないのだから。


「あ、こことかどうですか?」

「入るか?」

「はい」


そこはアースカラー中心の、落ち着いた、でも可愛らしさも十分ある子供服の店。エリちゃん似合いそう!思わずときめく胸に、ついさっきまで感じてたどきどきはどこかに消えてしまった。

店内は、外から見た通り可愛らしい服でいっぱいだった。この前看護師さんが買ってきてくれていたのがスカートだったからパンツがいいかな、なんて思ってたがまたワンピースとか買っちゃいそう。あっちこっちに歩き回る私の後ろを、相澤先生がついてくるという非常に珍しい構図で店内を見ていると、にっこりと愛らしい笑みの店員さんが近づいてきた。


「お嬢さまのお洋服をお探しですか?」

「あ、はい」


お姉さんの手元を見れば今オススメであろう、モノトーンのシンプルで可愛いワンピースを持っており、条件反射のように返事をすると後ろから小さな声でおい、と言われた。え?と振り返るよりも早くお姉さんがにこにこと言葉を重ねる。


「ちょうど今着てらっしゃるお父さまのお洋服とも合いそうだなぁ、と思ってついお声をかけてしまいまして...」

「お父さま...」


耳に残った単語の意味を反芻していると、後ろから息をつく音が聞こえた。...あ!!そういうことですか!?


「いや!あのですね...!」


身振り手振りで知人の子(ということにした)へのプレゼントであることを伝えると、お姉さんはあら!と困り笑顔で失礼しましたと言った。でもそのワンピースは可愛かったので買うことにした。


「悪い、先外出てる」

「はい、じゃあこれだけ買って私も出ますね」


おそらくは珍しく女性向けの買い物に付き合わされて疲れているのか、はたまたさきほどの間違いに気力を削られたのか、相澤先生は私にも聞こえるかどうかの声量で呟くとふらっと店外に行ってしまった。うん、あれが良いこれが良いとか言いながら誰かと一緒に買い物とかしなさそうだもんね。目的まで一直線、無駄なく買い物してさっさと帰りそう。その姿がいとも簡単に思い浮かんで少し笑った。


「あ、これいいかも」


レジに向かう途中、ポーチや帽子などの小物のコーナーで目を引いたアイテム。黒猫をモチーフの小さなショルダーバッグが目に入った。秋冬で使えそうなベロア素材に、チャックはゴールド。なかなか大人っぽい色合いではあるけれど、猫をモチーフにしており可愛らしさも十分にあるそれを手にとった。相澤先生、猫が好きなようだしこれなら看護師さんが買ってくれた服にも合いそう。と、自然とそれも一緒にレジに持っていった。


「お待たせしました〜」


店外でぼんやりしている(ように見える)相澤先生に声をかける。ショップ袋を持つ私を見て、近づいてくるとなんとも自然な動作でそれを持っていく。おお、そういうこともするんですね。


「可愛いバッグも見つけちゃったんで買っちゃいました」

「へぇ」

「相澤先生も気に入ってくれると嬉しいです」

「俺が?」


疑問符を浮かべそうな相澤先生を見上げながら、彼の持つショップ袋からバッグを取りだす。それをじゃーん、と掲げて見せる。


「黒猫ですよ!」

「黒猫だな」

「相澤先生みたいじゃないですか?」


にこにことバッグを自慢するように見せる。あれ、あんま反応なかったか?と思ってバッグの横からちらりと相澤先生を見ると、本当に少しだけ笑っていた、気がする。


「いいんじゃないかね。俺みたいかは知らんが」

「えー。なかなかに相澤先生っぽいと思うんですけどねぇ...」


色とか、このちょっとぼんやりしてるっぽい顔とか...色とか。と呟くと、色ばっかだな、なんて突っ込まれてしまった。うん、たしかに。


「エリちゃん、喜んでくれると良いですねぇ」

「喜ぶよ」

「相澤先生が言ってくれると心強いです」



バッグを戻しながら言うと、頭上からかかる返事に思わず頬が緩む。喜んでくれると良い。それが嬉しい。むず痒い気持ちでたぶん、今私はちょっと気持ち悪い顔をしているかもしれない。


「じゃあ、このまま病院行きましょうか」

「そうするか」


そう言いながら、私たちは並んで歩き始めた。ペースを合わせて歩く相澤先生に笑みを浮かべながら。













(相澤先生も荷物持ったりしてくれるんですね)
(それぐらい普通だろ)


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