■ 爆豪勝己


リカバリーガールに生徒たちの資料の整理を頼まれた。生徒の病床記録は、基本的にデジタル保存ではあるが、どうしても最初はメモ書き程度で書き留めてしまう癖のある私たち。本当ならコンスタントに読み込ませてデータ化させたら廃棄をするのが良いのだけれど、忙しさにかまけてついつい後回しにしていたのをついにやる事にしたのだ。その役目を自ら買って出た私は、パソコンのある職員室にそれを運ぶべくダンボールに書類を詰めていた。


「あれ、意外と少ない...?」


出来上がったダンボール箱は4箱。最後の箱には半分ほどしか入っていない。これなら2箱ずつで2往復でいけるじゃないか。意外とすぐ終わるかも?なんて思っていたのは数分前の私。


「しっかり前見とけやゴラァ!」

「ご、ごめんなさい...!」


そして今、目の前で怒るツンツン頭に私は謝っている。たかだか2往復と高を括って最初に軽い荷物を持って行った私は、2往復目の重いダンボールを持っていた。そのよろけた瞬間にぶつかったのが授業合間の小休憩中の爆豪くんだった。


「本当にごめんね、怪我とかしなかった?」

「んなヤワじゃねえわ!」

「心配すら怒られてしまうの...?」


足元に散らばる書類を集めつつ、彼を見て言えば怒鳴り返される。ついてない...とがくりと肩を落とすと目の前の影が動いた。正面を見ると、ぷりぷり怒りながらもキレイに書類を集めていく爆豪くん。


「あ、ありがとう。ごめんね」


何度も怒鳴られて、とてもじゃないが満面の笑みで言えなかったそれは、へらっとした笑い混じりになってしまった。それを見るととても大きな舌打ちとともに、ちんたらすんな、グズ!と怒鳴られた。ねぇ、どんな反応が正解なの?


「で、どこ持ってくんだよ」

「え?」

「さっさと言えや、ノロマ!!」

「ひえぇ!職員室です...!!」


あっという間に集められた書類をダンボールに入れ、持ち上げようとした瞬間に彼の腕が2つともかっさらっていく。一瞬意味がわからずに思わず聞き返せばまた怒鳴られた。思わず背筋を伸ばして返事をすれば、ふん!と鼻をならしてダンボールを抱えて歩き出す。おや?優しいな、なんて思ったが一緒に行く気はさらさら無いようでさっさと歩き始めてしまった。もう既に身長を大きく抜かされてる私はそれに追いつくべく早足で隣に並ぶ。


「ありがとう、助かります」

「オメーはもうちっと考えて動け!」

「ごもっともで」


正論をかなり暴力的に言われてしまい、思わずしゅんとしてしまった。なにこれ、暴言の宝石箱だよね。優しくなくない?この子、暴言の語彙すごくない?それでも私が持っていた時とは比べものにならない安定感でそれを持つ彼に、やっぱりヒーロー志望の子はトレーニングとかすごいんだろうなぁ、と感心してしまった。


「あ、今開ける!」

「当たり前だろーがボケナス!」


なんて考えていると歩く幅の違いから、どうしても遅れをとってしまっていた私。爆豪くんよりも半歩遅く職員室の扉を開けたものの間に合わず、また怒鳴られる。うぅ、そんな待たせてないのに...。そのまま中に入り私に言われたデスクに思いの外ていねいにダンボールを置く爆豪くん。あれ、やっぱり優しい?


「本当にありがとうね」

「何回もうぜぇ!1回言われりゃわかっとるわ!」

「お礼くらい素直に受け取ってよぉ...」


暴言の宝石箱や。変な方向に振り切っている彼のボキャブラリーに感心しつつも、私は目の前で手を合わせてお礼を述べる。それすらも辛辣に突き返されてしまい、思わず困ったように眉を下げてしまった。と、職員室の時計に目をやれば授業開始まで残り2分。


「わ、時間大丈夫?早く戻った方がいいよ!」

「言われんでも戻るわ!」


ずんずんと大股で職員室の扉の向こうに消えた彼を見届けて、私はデスクに両手を付き大きく息を吐いたのだった。











(優しさがわかりづらいよ...)


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