「今夜は、鍋!」
「いいから早く自分の寮戻れ」
「あぁー!押し出さないでー!」
部屋に先回りして待っていれば、なんとも素っ気なく背中を押して外に出されそうになる。のをドアの縁に両手を広げて突っ張って押し戻す。って、つよっ!これほぼ本気だろ!
「ふざけてごめんなさい!食べ切れないんです!お肉!」
マズイ。本気で追い出される。
そう思うやすぐに口は開いた。インターン先で頂いたお肉の量がとてもとても多いので食べきれないんです。
そう言えば、背中を押す力が一瞬弱まった。それにほっと息を吐き、力を緩める。
「...だからって俺の部屋に来んな。食うなら下で他の奴と食ってろ」
「え!やだ、引っ掛け!相澤先生と食べたいー!」
緩んだ瞬間を見逃さなかった相澤先生にぽいっと部屋の外に追い出される。じゃあな、と告げて閉じられそうになるドアに足を滑り込ませて阻止すれば、呆れたような視線が突き刺さる。
「大体からお肉はもうこの部屋の冷蔵庫なんですよ!」
「お前は人の部屋をなんだと思ってるんだ」
滑り込ませた分だけ開いたドアをこじ開けようと手で押し拡げるも、向こうもそこそこ本気で閉めようとしてるのかぴくりとも開かない。その隙間からお互いに見合って会話をするのは何とも間抜けな絵面である。
「ついでに言えば野菜も全部冷蔵庫にしまっておきました!」
「勝手に私物化するんじゃない」
ぎりぎり、と軋まんばかりに拮抗した力で開きも閉まりもしないドアを間に会話を進めれば、より呆れた様子で見下ろされた。やばい、腕がぷるぷるしてきた。
「なーにしてんだよ、お前らー」
と、間延びてはいるものの、聞きなれた声に視線を向ければ見慣れない髪を下ろし、私服のマイク先生がこちらを見ていた。
「向こうまで聞こえてたぜ、ショータ」
「この馬鹿がまた勝手に入り込んだんだ」
「ストレートな悪口!」
ため息とともに、諦めたのか相澤先生がドアを開ける。ただ中には入れないようにドアの縁に寄りかかっているが。
「私はただ美味しいお肉を相澤先生と食べたくて...」
「急にしおらしくするな」
「え、肉?どうしたのよ、それ」
興味津々に聞いてくるマイク先生に事の経緯を説明すると、じゃあみんな呼んで食おうぜ!となった。マイク先生では当たり前の展開なのだが、面倒と言わんばかりの相澤先生にこそっと耳打ちをする。
「今度は二人で食べましょうね」
その言葉に相澤先生はますます面倒臭い、という視線を寄越した。が、にこにこと笑って返せば大きなため息と共に、はいはい、と投げやりながらもしっかり返事をしてくれた。
(ていうかまずお前は職員寮に勝手に入るな)
(もー、今更じゃないですかぁ)
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