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「それはデートでは?」

わたしは「違います」と首を振って七海君を見た。七海君はふむ、と呟いて口元に手を当てた後、もう一度「それはデートでは?」と言った。

「五条さんとふたりで映画に行くんでしょう」
「う…それはそう、なんだけど」
「それをデートと呼ばず何をデートと呼ぶんですか?」

3回も言ったな。わたしは「デートに見えるかもしれないけどさ」と小さく呟いた。

同期で気心の知れた七海君は、任務でよく一緒になる。よく、といってもわたし自身が任務に割り当てられることは少ないのだけれど。

そして彼はわたしの相談に乗ってくれる、頼もしい友人だ。

五条先輩とお見合い(仮)をした際、うっかり映画を一緒に見る流れになってしまって。これまた流れでもう一度同じ映画を見に行くことになってしまった。これは映画の後、ふたり大盛り上がりで考察が滾ってしまい、パンフレットを購入してファミレスで2時間も談義し、勢いで来週の日曜日に映画の予約をとってしまったからだ。軽率な振る舞いだったと思う。

ところで、何故七海君が五条先輩とわたしがお見合い(仮)をしているか知っているのかについては、もう深く考えないようにしている。

何故か七海君が知っていたので、わたしは開き直って彼に相談することにしたのだった。

「世間一般で、それはお見合いが成立した後、仲睦まじくデートに行くという認識ですよ」
「世間一般が五条先輩に当てはまるの?」
「……ノーコメントで」

七海君はピッと呪霊を刻んだ刀を振るった。素早く振り下ろされた刀身から、呪霊の体液が床に飛び散った。五条先輩たちの世代は、いわゆる“黄金世代”にあたる。才能のある呪術師がうようよと存在しており、界隈でも屈指の実力者世代だ。わたしは、七海君もその一角を担う人材だと思う。対してわたしはこれといって何かに秀でているわけでもない。別に、悲観はしていない。こうやって、凄い人と友達でいられることはとても光栄なことだと思っている。

「あなた、結婚願望なんてありましたっけ?」
「そんなの聞く?」
「お見合いするほど困ってましたか、ということです」
「……困ってるか困ってないかで言えば、困ってないかもしれないけど。結婚はしたい」

呪術師として働く。でもそれだけでは生活は心許ない。呪術師として働く傍ら、アルバイトをしてなんとか食いつないでいる。そんな状況。けれど勤務時間が不規則な呪術師業は、アルバイトにたくさんの穴を空けてしまう。当然、長続きはしなかった。転々とバイト先を変えながら呪術師をする毎日。心許ないのは当然だ。

かと言って恋人を作ったとして。呪術師ということを隠したまま順当にお付き合いは出来るのだろうか。……わたしの場合、答えは否だった。非術師に呪術師の仕事ことを教えることは、非常にリスキーな行為なので、交際相手に仕事の話をしたことはない。ただ、理解をしてもらえなければ、交際も長続きしなかった。

そりゃ、もちろん経済的な話ばかりではない。素敵な人に出会って、恋愛して、それで結婚が出来れば最高だとは思うけど。

わたしはため息をついた。

「わたしがちゃんと強ければ良いんだけど」
「あなたはそこまで弱くはない」
「七海君がそう思ってくれて嬉しいよ」

呪術師同士でお付き合いするにも、この界隈は知り合いが多すぎる。今更誰かとどうにかなろうにも、気恥ずかしいというのが本音だった。

お見合いの話は、本当はちょっと期待していたのだ。まあ、相手が五条先輩でがっかりしてしまったのだけれども。

「五条さんならお金余ってますよ」
「でも五条先輩だよ」
「そこは否定しませんが」

七海君はくい、と特徴的な形のゴーグルを押し上げた。今日は火曜日。来週の日曜日まで、もう幾日もない。映画を観ること自体は楽しみだし、五条先輩と考察するのは悪くないと思っているのが少し悔しい。


五条先輩と映画に行って、そのままさっさと家に帰ろう。「定時ですから帰りますよ」と帰路に着く七海君の後ろを着いて歩きながら、わたしはどうやって『お先に失礼します』と五条先輩に言おうかを必死に考えていた。







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