4


ところで五条先輩は、どうして今更お見合いなんてする気になったんだろうか。まさかとは思うけれど、五条家のお偉い人たちに結婚をせっつかれてるのだろうか。……いや、無いな。五条先輩こそが“五条家で一番お偉い人”だろうし。

紅茶のティーポットは既に3個目。ケーキスタンドのデザートも既に無くなっている。五条先輩は昔から、適度にわたしのことを煽ってくるので腹が立つことこの上ないけれど、話は面白い人だ。馬鹿みたいに強すぎる特級呪術師なだけあって、あらゆる案件に引っ張りだこ。国内外問わず行ったことある場所が多いから、話の引き出しも多い。特に、最近会っていない高専の先輩や同期、後輩の子、彼が受け持つ生徒たちの話は聞いていて飽きることがない。みんな相変わらず元気にやってるみたいで、それはとても嬉しかった。

五条先輩は、もう何杯目かわからなくなった紅茶にぼちゃぼちゃと角砂糖を落とした。こんなに乱暴に角砂糖を投下しているにも関わらず、紅茶がテーブルに醜く飛び散ることはない。器用なものだと内心感心しつつ、わたしは自身のティーカップに口をつけた。

五条先輩が角砂糖をあまりにたくさん使うので、気を利かせたウェイター君がシュガーポットをお代わりのたびに持ってきている。ティーポットが3個目なので、シュガーポットも3個目だ。

「で、この後どうする?」

この後。この後とは?

この後というと、このお見合い(仮)の後のことを指しているのだろうか。にこにこ上機嫌な五条先輩は、当然のようにこの後二次会(仮)にわたしを連行しようとしていらっしゃる?

「わたしは映画を観ます」
(注訳『だからあなたと二次会には行きません』)

相手が五条先輩でなければ、話の盛り上がり次第ではどこか二軒目もありかな、とは思っていた。まあ、あくまでも“相手が五条先輩でなければ”だ。

お見合いの相手が五条先輩だなんて、一体誰が想像するだろうか。そんなの、気を遣わないで良いから楽しくやってね、と言われてやって来た雀荘の雀卓にアカギが居るようなものだ。いや麻雀全然詳しくないんだけど。

撤退は決して悪い戦略ではない。三十六計逃げるに如かず。この人相手にあれこれ策を練って戦ったところで、勝ち目があるようにも思えない。逃げてしまう方がよっぽど賢いというものだ。
わたしはにっこりと微笑んだ。

「いいね!僕“テネット”が観たかったんだ!」

やったあ!と何故か喜びを隠そうともしない五条先輩は、光の速さでスマホでどこの映画館が一番都合いいかを調べ出してしまった。

わたしは深く項垂れた。

いいえ、誘ってないです。しかも五条先輩がみたがっている映画がわたしが観たかったのと同じというのが物凄く癪に触る。五条先輩は「そうと決まれば早速行こう!今すぐ行こう!」と元気良く立ち上がり、がっちりわたしの肩をホールドした。
くそ、逃げようとしてたこともしっかりばれている。

「あんまり眉間に皺寄せてると、七海みたいになっちゃうよ」

わたしの眉間に五条先輩の長い人差し指がぬっと伸びて、ぐりぐりと解すように遠慮なく皺を伸ばした。もう本当に余計なお世話だし、七海君に失礼すぎる。


ところで、この後わたしは映画だなんて拘束時間が長いイベントを持ち出してしまい、大後悔することになるのだった。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -