18


たとえばそう、毎日毎日がアルバイト先と自宅との往復だったり、呪霊狩りの任務に悉く外されていたり、そういう冴えない日々が続いていたとして。休日には何の予定も入っておらず、もちろん色のある用事もない。

五条先輩は海外出張らしく、ここ二週間は大した連絡も取ってなかった。最後に連絡が来たのは、アンコールワットの前でピースした自撮りの写真。相変わらず忙しい先輩だ。わたしが適当に返信したらスタンプ連打の爆弾が降ってきたので、それ以降ラインはしていない。

未読のまま放置された五条先輩との会話は、全部で35件だった。多い。

ところで、「合コン行かない?」と誘われたのはそんな折のことだった。

「人数合わせで、あと1人欲しくって!」

両手を合わせて頼み込んできているのは、前の前のバイト先で知り合った友人だった。わたしは今、彼女と一緒に都内の静かなカフェテリアでランチをしている。女性客ばかりのカフェテリアの内装は緑に溢れていて、さながら都会のオアシスのようだと思った。

わたしは、麻を編んだコースターの上に鎮座している甘いカフェラテに口をつけた。都会のオアシスのカフェラテはひどく甘く、きっと五条先輩が好きな塩梅だ。

「いいよ」
「やった!よし、決まりね!」

わたしはまだ半分も減っていないカフェラテを、躊躇いがちに啜りながら答えた。

土曜日、20時にね。と言いながら、彼女はわたしのラインに時間と合コンの会場を送った。ぶるりと震えたスマートフォンに、グルメサイトで検索した居酒屋のアドレスが表示されている。

合コンは久しぶりだった。たまにはこういう機会も悪くはない。わたしは人数合わせで、という言い訳を心の中でしっかりしつつも、新しい出会いに期待をむくむくと膨らませていた。



「はじめまして、僕の名前は……」

細長いテーブルには、生ビールが8つ並んでいた。女性と男性に別れて座り、乾杯もそこそこに自己紹介が行われる。左からプログラマー、メーカー勤務の営業マン、プログラマー、そしてウェブ広告関係のデザイナー。皆さんお洒落で、とても優しそうな雰囲気。わたしを除いた女性3人は皆、学生からの付き合いだそうだ。メーカー事務、銀行員、化粧品売場のお姉さん、と堅実で華のある職業の中に呪術師がひとり食い込んでいる。場違い甚だしいが、どうしたものか。

自己紹介をして、ご歓談。合コンといっても、中身はバイト先の飲み会とそう変わらない。「どんな映画が好きなの?」だったり「普段休日は何をしているの?」といった、ありふれた世間話が狭いテーブル越しに広がってゆく。

「君、可愛いからモテるでしょ」だなんてテンプレートすぎる社交辞令も、久しく聞いていなかったものだから、ついつい嬉しく感じてしまう自分が憎い。憎いと思いつつ「そんなことないですよ」だなんて、わたしも定型句のような返事をした。茶番のような煩わしいやりとりだったけれど、わたしは合コン独特の雰囲気と会話を十二分に楽しんでいた。

ビール二杯に、酎ハイ半分を飲んだ頃。「ちょっとお手洗い、失礼します」と席を立ってしばらく。土曜日の夜、店内はひどく混雑している。細長い廊下の隅にあるトイレは
男女別だが、個室が一つずつしかない。わたしはコテ波仕上げの塗り跡の付いた白い壁に身を預けて、個室が空く順番を待っていた。店内を華やかに彩るシャンソンに、少しだけ体を揺らして、耳を澄ませながら。


「随分といいご身分なんじゃない?」

今まで聞いたことのないほどに低く、冷たい声が鼓膜を揺らし、黒い大きな影がわたしの視界の中にどっかりと現れるまでは。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -