「タローくんって、もしかして煙草を吸う人?」

 まだわたしの彼の事をタローという名前だと思っているのか、わざと言っているのかは知らないけれど、もうその呼び名はライトの中ですっかり定着してしまったらしい。ベッドに座るなり言ったライトに、同じくベッドに腰を下ろしながら視線を向ける。フロントで受け取った鍵でロックを解除し、中へ入って、ベッドに座る。いつもの一連の作業。タッチパネルで選択した今日の部屋は、小綺麗な印象だ。

「ふうん、分かるんだ。ヴァンパイアって、本当に嗅覚が優れてるんだね」
「だから言ったでしょ。キミの、この髪の間から、かすかに煙草の香りがするんだよね」

 こちらに伸びてきた指先が、さらりと髪を梳く。ライトはビッチちゃんの髪にもこんな風に触れるのだろうか。わたしの彼は、こんな事はしてくれないし、こんな温度もしていない。

「凄い。それじゃあビッチちゃんが浮気をしたら、ライトにはバレバレなわけだ?」
「実際、ビッチちゃんはよくボク以外の男の香りをぷんぷんさせている事があるよ」
「ふうん、話を聞く限りそのビッチちゃんって呼び方、似合わないんじゃないかって思っていたんだけど、本当に“ビッチちゃん”なわけだ」
「んふ、ビッチちゃんはビッチちゃんだからね。常に甘い香りでボクらヴァンパイアを誘ってる。快楽を与えてくれるなら、ボク以外でも誰だっていいんだ」

 にたり、つり上がるくちびるはいつも三日月みたいだと思う。ライトの考えている事は、わたしにはよくわからない。

「こうしてボクがキミと“浮気”をしている間にも、一人になったビッチちゃんが他の兄弟に吸われてるんじゃないかって思うと」
「思うと?」
「興奮するよ!」

 はあ、と熱い息を吐き出したライトが、それを本心で言っているのかどうかなんて、わたしには分からない。だってそれは、きっとライトにも分からない事だから。

   
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