「ビーッチちゃん、なにしてるの?」

 なんて聞きつつも、ビッチちゃんのだいたいの行動は把握している。朝起きる時間から、夜寝る時間、それにお風呂に入る時間や何処から身体を洗うのか、ビッチちゃんの毎日の体調の変化や、果ては排卵日のサイクルなんてことまでね。
 自室のベッドに腰掛けてブリックパックを両手で包み込むようにして不思議そうな顔をしていたビッチちゃんが、ボクの声に反応をして顔をあげる。いつの間に入ってきたんだという顔をしていたけれど、いつもの事だから、ついに文句を言うことは諦めたみたいだ。

「さっき、廊下を歩いていたら、レイジさんがこれをくれたんだけど」
「クランベリージュース、か。んふ、レイジも案外気を回すところがあるよね」

 ビッチちゃんは不思議そうな顔のまま、首を傾げる。

「その顔、なんでレイジがそれをくれたのか、訳が分かってない顔だね」
「うん、ライトくんは分かるの?」
「そりゃあね。クランベリージュースは貧血にいいってよくいうでしょ?」
「……えっと、私、そんなに血が足りなさそうな顔してるかな?」
「っていうかさ、キミ、今日オンナノコの日、でしょ。だからだよ」
「……!」

 ビッチちゃんは顔を真っ赤に染め、手元のクランベリージュースを取り落としそうになるくらいに動揺しているようだった。

「んふ、ビッチちゃんたら。もしかして今まで、ボクらがビッチちゃんの体の変化に何も気づいていないとでも思っていたのかな? だとしたらいただけないよ」

 ボクらの嗅覚をあまり舐めない方がいい、と耳許で囁きながら、鼻を鳴らしてみせる。そのまま鼻先をスライドさせ、首に埋め、お腹のあたりをゆっくりとてのひらで擦ってあげる。眉をしかめるビッチちゃんは、今まで痛いのを我慢して平然を装っていたのかもしれない。オンナノコの日特有の、絡み付くような不純な血の香りが、ホットパンツに隠れたビッチちゃんの足の向こう側からこんなにも立ち上ってくるっていうのに、それを隠そうとしていたんだから滑稽だ。

「こんなに芳醇な香りをさせちゃってさ。……ああ、いい香りだね、ビッチちゃん?」

 ゆっくりと、首筋から下へ下へ、鼻先を移動させていく。お腹の上のてのひらも、下へ下へ、まさぐるように這わせる。白い太ももを擦りながら言ってみたら、ビッチちゃんはびくっと一度だけ震えた後、慌ててベッドから立ち上がり、真っ赤な顔で後退り、ボクと距離を取った。

「んふ、なあに、そんなに怯えた顔をして」
「だってライトくん、なにか変な事考えてない」
「んー、変なコトってどんなコトだろうね。ボクが、そういえばまだ一度も女の子の経血の味は味わった事がないなあ、って、考えていた事かな」
「……! やだ、来ないで!」
「ええ、どうして? ボクはただ、いつものように、ちょっとビッチちゃんの血を頂こうとしているだけなのに」

 広いとは言えない部屋の中、逃げ惑うビッチちゃんの背中を追いかける。部屋の隅まで追い詰めたところで、ボクとビッチちゃんは向かい合う格好になった。じりじりとすこしづつ距離を縮める。

「ら、ライトくんの変態……!」
「んふ、いいね、その響き! もっと言ってよ!」
「……」
「それにさ、ビッチちゃんは何を想像してそんなことを言っているの? そんな風に期待に頬を染めたキミも、相当な変態だよ」
「だ、誰も期待してなんかない……!」
「本当に?」
「っ、も、もう、出ていってよ」

 それは、動揺しきったビッチちゃんの、最後の抵抗だった。肩を縮め、ボクを怯えた顔で見るばかりだった彼女が、突然ボクに体当たりを決める。そのままどすどすと床を踏みしめながら、ボクの体を押し始めた。ボクはドアの前まで後退りながら移動する事になる。そのまま勢いよく廊下に押し出された。どすんと廊下に尻餅をつく。頭上から、がちゃりとドアの閉まる音と、鍵をかけた音が降ってきた。
 締め出された。
 顔をあげれば、閉ざされたビッチちゃんの部屋の扉。ビッチちゃんのくせに、ボクを追い出そうなんていい度胸だ。

「いてて。酷いなあビッチちゃんは、ボクを追い出すなんて」

 立ち上がってドアノブに手をかけるも、やっぱり鍵がかけられているらしく、びくりとも動かない。沈黙を保つ薄いドアひとつ隔てた向こう側。ビッチちゃんはこのまま籠城戦を開始するらしい。ボクらヴァンパイアにとってこんなもの障害物にもならないって知っている筈なのに無駄な足掻きばかりするんだから、ビッチちゃんは面白い。さて、これからどうしてビッチちゃんにオシオキを与えてやろうか。考えるだけで口許が緩む。
 物音ひとつない廊下に着信音が響いたのはそんなときだ。メールか。ポケットに手を突っ込んで、人間たちの作り出した機械を取り出して、確認。画面には名前の名前が表示されていた。




『ライト、いま暇?』




 今日はたしか、名前とタローくんのデートの日だ。ここ一週間ほどずっと浮かれていた名前が、それしか言葉を知らないとばかりに、同じ事を何度も何度も説明していたから、すっかり覚えてしまっていた。お楽しみ中ならばメールなんかしてこないはずだけれど、どうも名前の思うようには事が運ばなかったらしい。




『なあに? 今日はキミ、タローくんと久しぶりのデートじゃかった?』

『行けなくなったってさ』

『んふ、あんなに喜んでいたのにねぇ』

『わたし、しばらく立ち直れないかも』




 画面の向こう、泣きそうな顔をしている名前が目に浮かぶようだ。手元に落としていた視線を一瞬だけ、閉ざされたドアのほうに向ける。相変わらずの沈黙。ああ、“こういう方法”でオシオキをするっていうのもアリかもしれないね。ビッチちゃんは与えたら与えただけ、喜んじゃう子だから。




『そんなに落ち込まなくても、ボクもさっきビッチちゃんに振られたばかりだよ』

『今回は何をやったの?』

『メールじゃとても言えないような、コ・ト』

『ああ……』




 ビッチちゃんの部屋の扉の前、名前とのメールのやりとりを繰り返す。何も言ってこないボクを不信に思ったのか、扉の向こう、ビッチちゃんがこちらを伺う気配がする。ボクは知らないふりを続ける。




『ねえ、振られた者同士、今から慰め会でもしようか?』

『いいねそれ!』

『それじゃ、いつもの場所で』

『了解、いつもの場所で』



   
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